第3話 猫、アイツに舎弟をぶつける
ユニアルが両手を回転させながら近づいていく。カンジの前に来ると動きを止めた。上部のレンズで姿を確認している。それからカンジの足元でくるくると回り始めた。
「ユイカ、お掃除ロボット買ったんだ」
「うん。動物の言葉がわかるって書いてあったから。これであの子も寂しくないかなって。ほら、私は日中家にいないじゃない? でももう一匹飼うのはちょっと無理だったからさ、ロボットだったらいいかなって。掃除もしてくれるし」
「どう、ペットと会話できた?」
「できたけど、最初の会話はあの子を叱る事だったよ」
ユイカは苦笑いを浮かべ、肩を竦めた。カンジは優しい微笑みを湛えている。部屋の中を見渡して猫を見つけると、より一層笑みは深まった。
「なにしたの?」
「あの子ったらね、勝手にカリカリのご飯を食べたのよ。ちゃんとね、カリカリの袋はキッチンの戸棚に仕舞っておいたのよ。でもあの子ったら勝手に開けて袋を爪で引っ掻いて開けたの。だからね、ユニアルにこういうのはやっちゃ駄目って言ってもらったわ」
「器用だね。食いしん坊なところが可愛いじゃん」
「それは、そうね。面白いのはここからでね、あの子ったら、ユニアルも食べたって言うのよ。おかしいでしょ」
二人はどっと笑う。愛しくてたまらないという優しい笑い声だった。
猫は自分の事を話されているのだと理解した。声は聞こえているが何をしゃべっているのかわからない。
『アイツ、もしかしてオレの悪口を言っているのか』
猫は壁を這い、慎重に二人の元へと足を進める。ユニアルに近づくと尋ねた。
『おい。ご主人はアイツとなにを話してるんだ?』
《御主人様ハ、アナタガ隠レテ餌ヲ食ベタトキノ話ヲシテイマス》
『なに言ってるんだ? オレが隠れて餌を食べた事なんてないだろう』
猫は不愉快そうに顔をゆがめる。思い当たる事がないという顔をした。
「おっ! さっそくユニアルたちが話しているところに出くわしたぞ」
カンジはキラキラとした目で猫とユニアルを見下ろしてきた。猫は体を固くして身構える。
『げっ。アイツ、こっちを見てやがる』
《問題デスカ?》
『アイツがさっき言った侵入者だ、ゴミだ。吸い込め!』
ユニアルはランプを交互に点滅させた。
《承知シマシタ》
ユニアルは軽快な音を立て、カンジの足元を早い速度で回り始めた。両手は忙しなく回転し続け、一生懸命に空気を吸い込んでいく。
《ゴミヲ発見シマシタ》
うわごとのように同じ言葉を繰り返す。
「ふふ。ごめんね。笑っちゃ駄目だと思うんだけど面白くて」
ユイカがお腹を抱えて笑う。
「いや、いいさ。ユニアルには僕がゴミに見えるらしい」
カンジは両の手の平を上に向け、上下に動かし、寂しげに息を吐いた。ユイカは横で笑いを堪えながらも噴き出していた。
「たぶんね、ゴミを発見するセンサーがついているから来たんだと思う。ほら、外に行くとどうしてもゴミやら埃やら、いろいろとつくじゃない?」
ユイカはカンジを慰めようとするが、あまりにもユニアルがカンジの足元で周り続けるものだから、ユイカはさらに声を出して笑った。
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