第2話 猫、アイツに腹が立つ

 時刻は十一時を回っていた。猫はキャットタワーの上で寝ている。ユニアルは床を這いまわり、ユイカはキッチンで調理をしていた。

 インターフォンの音が部屋に響き、猫がうっすらと目を開けた。耳を立て、音の出どころを探っている。

「はーい」

 ユイカはいつもより少し高い声でインターフォンの受話器を取った。来訪者の声が聞こえると、ユイカの声はさらに高くなる。

 インターフォンの受話器を置くと急いで玄関へと向かった。猫はユイカの行動と声のトーンで誰が来たのか理解した。キャットタワーから床へと飛び降り、陰から玄関を睨みつける。

 玄関の戸が開かれた。ユイカと同じ年くらいの男性の姿があった。男性は遠慮もせずに玄関に上がり込むと靴を脱いだ。彼はユイカの恋人で円城カンジという。

「久しぶり。来てくれてありがとう」

 ユイカが柔らかな声でカンジに話しかける。カンジは顔を緩ませた。

「久しぶり。元気だった?」

「うん。元気だった。あなたは?」

「俺? 俺は元気だよ」

 軽い挨拶を交わした後、二人はぎこちなく顔を近づけた。唇を合わせ、すぐに離す。二人とも恥ずかしそうに顔を赤くして俯いた。

 そんな二人を猫は影から見ていた。苛立ちに尻尾を膨らませる。

『ご主人はなんであんな奴と挨拶するんだ』

 前みたいに爪で引っ掻いてやろうか、と前足の爪を出す。だが、以前それをやったらユイカに怒られたのを思い出す。何を言っているかはわからなかったが、悲しそうなユイカの顔はもう見たくはなかった。

 猫は爪を戻し、影から二人を見る作業に戻る。そこへ、ユニアルが二人へと近づいていくのが見えた。

『オレがやらなくてもオレの舎弟が追い出してくれるだろうよ。オレは高見の見物と行こうじゃねぇか』

 猫は目を開いて笑んだ。

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