第10話 猫、お掃除ロボットを舎弟にする

『裏切り者め!』

 恨みがましくユニアルを睨む。ユニアルはランプを点滅させると両手を回転させ、床に落ちているゴミを吸い始めた。

『無視するんじゃねぇ! お前も食った癖に。裏切り者め!』

 猫は喉を鳴らした後、餌の入った皿に向き直り、項垂れた耳のまま顔を寄せて餌を口にした。

 その瞬間、嫌な事があったなど忘れたように猫は餌に夢中になった。そんな猫の背後にいたユニアルは猫のそばをくるりと周る。

『何やってんだよ?』

《ゴミガ落チテイマス》

 ユニアルは猫の周りを回り続ける。

『またか! いい加減にしろよ!』

《ゴミガ落チテイマス》

『うざってぇ!』

 ユニアルのランプは点滅する。猫はシャーシャーと威嚇した。その様子を着替え終わったユイカが見ていた。

「すごい仲良くなったわね。私も嬉しいわ」

 鼻歌を唄い、彼らの横を通り過ぎていく。冷蔵庫からビールを取り出して、また部屋へと戻っていった。

『ご主人はなんて言っていた?』

《御主人様ハ、ワタシトアナタガ仲良クナッタ事ガ嬉シイヨウデス》

『オレとお前が仲が良い? そんなバカな! ご主人はどこを見ているんだ!』

《仲ガ良イトハ、ドウイウ事デスカ?》

『そんな事もわかんねぇのか。お前、どうやって生きて来たんだ?』

 猫は呆れ、深く息を吐き首を左右に振った。

『まぁなんだ? あれだよ。つまりは……』

 言いかけて言葉を止めた。天井を見上げ前足で数回床を叩いた後、時が止まったように固る。

《アレ、トハナンデスカ?》

『あの、アレだよ。つまりは、その……』

 うまく言葉がまとめられず前足で顔を撫で、目を細める。

《アナタト御主人様ノ関係、トイウトコロデショウカ?》

 尻尾をまっすぐに伸ばし、前足でユニアルを指した。

『それだ! そうだよ! オレはそう言いたかったんだ。わかるか? 仲が良いっていうのは、オレとご主人の関係を言うんだ』

 胸を張り、自信満々に告げた。ユニアルはランプを点滅させ、軽快な音を立てた。猫はその音に驚き身構える。

《デハ、アナタトワタシハ仲ガ良イトイウ事デスネ》

『いやいや、だから違うって。仲は良くない』

《ナゼデスカ?》

『なぜって、そりゃお前がオレを追いかけ回すし、オレをご主人に売ったりしたからだろう。そんな奴と仲良くなんてなれねぇよ』

《ドウスレバ仲良クナレマスカ?》

『どうすればって、そんなの簡単だぜ。まずはな、相手の嫌がる事をしなけりゃいいんだ』

《嫌ガル事? ワタシハアナタノ嫌ガル事ヲシテイマセン》

 猫は目を点にしてユニアルを見つめる。コイツはなにを言っているんだろうと呆気に取られていた。

『あのな、お前はオレを追いかけ回しただろう? お前は腹が減っていたからオレの毛を食っていただけなんだろうけど、オレはスゲー嫌な気分だったんだぜ?』

 ユニアルのランプが光る。

《嫌デシタカ?》

『嫌だったな』

 ユニアルのランプが交互に点滅した。

《ソレハ申シ訳アリマセン》

『おう。わかればいいんだよ。気を付けろよ』

《ハイ》

『なんだよ、お前。結構物分かりがいいじゃねぇか』

 ヒゲを上下に揺らし、ふふんと鼻を鳴らす。

『いいか。オレの言う事を聞いていればなにも問題はない。お前をオレの舎弟にしてやるよ』

 猫は鼻をユニアルの前方に押し付け、なんども擦り付ける。

《ハイ。ヨロシクオ願イシマス》

 猫は餌の続きを始め、ユニアルは猫の邪魔にならないように少し離れたところで手を左右に動かし空気と共に猫の毛を吸い込んだ。

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