第9話 猫、お掃除ロボットに頼む

 猫は毛が逆立った尻尾をピンと伸ばし叫ぶ。と同時にユイカが猫の両頬を手で押さえる。

「こら! どうしてこんな事したの!」

 ユイカの険しい顔に猫は体を縮ませる。自分はやっていないのだと、小さな声で言い訳を述べる。

『おい! どうにかしろよ! お前も食っただろ!』

 猫はユニアルを怒鳴りつける。ユニアルは無反応だった。

「ユニアル、袋に穴を開けちゃダメ、勝手に餌を食べるのもダメだって伝えてちょうだい」

 その声に反応し、ユニアルは猫語を発した。

《御主人様ハヒドク怒ッテイラッシャイマス。袋ニ穴ヲ開ケテハイケナイ、餌ヲ勝手ニ食ベルノモイケナイ。ソウ仰ッテイマス》

『怒ってんのはわかってんだよ! オレはやってないと言え! お前も共犯なんだから協力しろよ!』

 ランプが交互に点滅する。機械音を立てる。

《ワタシハ食ベテイマセン。掃除ヲシタダケデス》

 猫は口をあんぐりと開けて信じられないという顔をしている。わなわなと震えた声を出す。

『このっ、裏切りモノ!』

 ユニアルは気にも留めていない。澄ました態度だった。

 喚く猫を持ち上げ、ユイカは険しい顔を向ける。逃げられないように体が固定されているので猫は動けない。どうにか許しを得ようと可愛い声で鳴いてみるが、ユイカの表情は変わらない。

「駄目でしょ! 次やったらご飯抜きだからね!」

『待ってくれ! オレだけが悪いんじゃないんだ! ソイツだって食ったんだぞ! オレだけじゃないんだ! ソイツも食ったんだ』

「もう、何言ってるの。ユニアル、教えてくれる?」

《御主人様、彼ハ自分ダケガ悪イノデハナイ。ワタシモ食ベタノダト言ッテイマス》

 ユイカは大きなため息を吐いた。

「ユニアルはお掃除ロボットよ。あなたが零した餌を掃除しただけで食べたんじゃないわ」

『アイツも食べたんだ! 信じてくれよ!』

「にゃーじゃない」

 ユイカの剣幕に押され、猫は押し黙る。

「もう、本当に食いしん坊なんだから」

 猫を下ろし、ユイカは穴の開いた袋を持ち上げた。餌が零れないように穴を手で塞ぎながら猫のお皿に餌を移す。いつもより気持ち少なめだった。

「今日は少し少なめね。もうやっちゃ駄目だからね」

 猫の頭を手で軽くポンポンと叩き、ユイカは服を着替えに部屋に入っていった。

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