第4話 猫、お掃除ロボットを噛む
翌日、ユイカはいつものように猫の餌を準備してからせわしなく玄関の扉を開けて外へ出て行った。
部屋の中には一匹と一体が残されている。餌を食べ終えた猫はキャットタワーのてっぺんに登り、丁寧に毛づくろいをしながらユニアルを見下ろしていた。ユニアルも頭上に付いたカメラで猫の様子を伺っている。
何もせずに自分の方を見上げるユニアルに、猫はヒゲをピンと張り不快な表情を見せる。尻尾を三回ほどキャットタワーに叩きつけ、警戒しながら床へと降りていく。二メートルくらいの高さから戸惑いもせずに降りるその姿は、まさに獲物を狙う鳶のように鋭い。
猫は床に着地すると姿勢を低くして一歩ずつ慎重にユニアルの元へと進んでいく。
ユニアルは黙ってその様子を見ていた。
猫は姿勢をさらに低くし、脚を曲げて地面にお腹をつけ、ゆっくりとユニアルに近付く。あと数センチのところまでくると動くのを止め、その場でお尻を振り始めた。
タイミングを狙っている。鋭い眼差しでユニアルの動きを注意している。そして――ユニアルに強烈な一撃をくらわせた。
《攻撃ハヤメテクダサイ》
猫語でユニアルは訴えた。猫は目を見開き固まった。
《ワタシニハ、アナタノ行動ヲ御主人様二報告スル義務ガアリマス》
『なんだと! オレの行動をご主人にチクるっていうのか!』
猫は憤慨し、毛を逆立てる。ユニアルは怖がる様子もなく淡々と続けた。
《御主人様ヘノ報告ハ義務デス》
『うるせぇ! お前なんてこうしてやる!』
猫は鋭い牙を覗かせてユニアルの機体に噛みついた。しかし、ユニアルの体は固く猫の方が逆に痛みを伴い叫んでいた。
『ぎゃあ! なんだお前は! 固くて噛めやしない』
口元を前足で押さえ、体を震わせた。
《ワタシハロボットデス。食ベル事ハオススメシマセン》
『ロボットってなんだ? おまえはオレの言葉をしゃべるのに奇妙な格好をしてやがる。毛もなく体は固く、腕も細くてすぐに折れそうだ。それに口がなくてどうやってものを食べるんだ?』
《ワタシハ食事ヲ必要トシマセン》
『何言ってんだ? 飯も食わずにどうやって生きるって言うんだ! ははーん。お前、強がりを言っているな? 自分じゃ獲物を獲る事もできないから負け惜しみを言ってるんだ』
ヒゲを上下に動かして猫は笑った。
《イイエ。ソウデハアリマセン。ワタシノ食事ハアナタガ食ベルヨウナモノデハアリマセン。強イテ言ウナラバ、電気ヲ食ベテイマス》
『でんき?』
猫は瞬きを数回して首を傾げた。
《ハイ。電気デス》
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