第35話 救出作戦
「こうして見ると、ただの
密生した樹木が陽光の
リューリたちは、フレデリクからもたらされた情報により、「エクシティウム」の拠点の一つを落とすべく、現地を訪れている。
拠点の場所を知るフレデリクがいることで転移の呪文が使用可能になった為、魔法兵団の力で作戦参加者を一度に全員移送することができたのだ。
「認識阻害呪文による隠蔽……教えられなければ、ここに拠点があるなんて誰も分からないだろうね。『奴ら』も、なかなかやるじゃないか」
同意するかのように頷いたのは、ハルモニエ王国の元魔法兵団長、ミロシュだった。
彼の認識阻害呪文により、リューリたちの姿もまた、敵の目から隠されている。
「なまじ『上手く隠れている』からこそ、第三者に見付かるなどとは思っておらず油断しているだろう。そこが狙い目というやつさ」
「しかし、なぜ現役を
アデーレの言葉に、ミロシュが、くすりと笑った。
「心配してくれてるのかい、アデーレちゃん。別に、私たちは老いぼれて弱体化したつもりはないよ。ただ、責任のある立場に疲れてしまっただけさ」
「そうそう、まだ、お前たちには負けんぞ」
バルトルトも、両手を腰に当てて胸を張った。
「ここは、一応他国の領土だからな。ハルモニエ王国としてではなく、あくまで肩書を持たない『私人』である我々が『勝手にやる』
そう言いながら、ジークはリューリの頭を撫でた。
「本当は、この国にも事前に告知するところですが……時間が惜しいですからね」
ウルリヒも、「拠点」がある筈の森を見やって言った。
「こんな、
作戦開始を待つ、黒ずくめの
少数精鋭とはいえ、全ての作戦参加者を合わせれば結構な人数であり、「私人」が動かすにしては規模の大きな戦力だろう。
「失敗する訳にはいかないからな。準備し過ぎるということもないさ」
リューリは背伸びして、励ますように彼の背中を軽く叩いた。
「リューリちゃんには、感謝しているんだ」
「そうなのか?」
フレデリクに、そう言われて、リューリは首を傾げた。
「君の存在が、私を誤った道から引き戻してくれた。そして、私は君を殺そうとしたにも拘らず、ずっと味方でいてくれる……それが、どれほど支えになっているか」
彼の言葉に、リューリは少し考えて答えた。
「フレデリクが私を通して娘さんを見ている時、子供を思う親の気持ちというのを初めて感じたような気がしたんだ。まるで、自分のことまで思ってもらっているみたいだった……いや、私が勝手に思っただけだから、気にしないでくれ」
言ってから、リューリは恥ずかしくなって頬を赤らめた。
フレデリクは少し驚いた表情を見せた後、優しく微笑んだ。
「私も、リューリちゃんのことを娘のように思っているよ。マリエルが帰ってきたら、是非、友達になってやって欲しい」
「もちろんだ」
リューリは、右手の親指を立ててみせた。
「それでは、作戦の最終確認だ。魔法兵団は認識阻害魔法を解除したのち、見た目の派手な魔法で攻撃して、できる限り向こうの戦闘員を釘付けにしてくれ。騎士団は魔法兵団の護衛を頼む」
ジークの言葉に、バルトルトとミロシュが頷いた。
「任せとけ!」
「久々に、でかい花火を上げてやろう」
「その間に、我々
リューリは、ジークを見上げた。
「マリエルちゃんのこと、頼んだぞ」
「ああ。フレデリクの情報で、拠点内部の大まかな構造も事前に分かっているし、むしろラクな部類の仕事さ。もちろん、油断はしないがな」
「よろしく、お願いします……!」
力強く頷くジークに、フレデリクが頭を下げた。
「それじゃ、戦闘開始前に『おまじない』をかけておくか。ウルリヒ、手伝え」
そう言って、ミロシュは持っていた
すると、リューリたちの身体が、一瞬淡く輝いた。全身から軽い熱感と共に、不思議な爽快さが湧き上がる。
「身体能力向上に魔法への耐性強化、武器と魔法の威力も上昇する、お徳用詰め合わせ呪文だ」
呪文の詠唱を終えたミロシュが、にっこりと笑った。
「さすが、元魔法兵団長というだけあって、只者ではないな。戦闘前の準備も抜かりないということか」
リューリは感心した。
「それじゃ、敵の認識阻害呪文を剥がすよ。解呪呪文、斉唱!」
ミロシュの指揮で、魔術師たちが呪文の詠唱を始めた。リューリとフレデリクも、彼らを援護するべく詠唱に参加する。
やがて、ただの森にしか見えなかった空間が滲み始めたかと思うと、突然、石造りの砦が出現した。
「本体が見えたか。今度は派手にやるよ。ただし、要救助者の確保が確認されるまで、砦自体の破壊は最小限にすること、いいね」
リューリたち魔術師は、ミロシュの指揮で再び呪文を詠唱した。
砦の前面に、幾つもの巨大な火球が轟音を上げて炸裂する。
「では、ちょっと行ってくるぞ」
ジークの言葉と共に、彼と、その配下である
それから数十秒後、砦の崩れた壁の中から、複数の巨大な生き物が飛び出してきた。
熊とも虎ともつかない巨大な体の背部には、翼まで生やしている。自然界では目にする筈もない、魔法で生み出された生き物だ。
「奴らを魔術師たちに近付けるな!」
言うが早いか、アデーレの父にして元騎士団長のバルトルトが跳躍し、携えていた
彼に続き、アデーレや他の騎士団員も魔術師たちを守るべく、魔法生物たちに向かっていく。
騎士たちが盾役を務めている間も、リューリたち魔術師は間断なく砦に向かって巨大な火球や氷塊などの攻撃魔法を放ち続けた。
敵も状況を把握したのか、砦の前面には対魔法防御壁が展開され、更に反撃で灼熱を帯びた光球や火球がリューリたちの周囲に飛来するようになった。
しかし、味方の陣地にも
統率のとれていないところからすると、相手が軍隊のように訓練されている訳ではなく、寄せ集めの集団であるのが見て取れる。
「こうして見ると、膠着状態のようだな」
リューリが言うと、ウルリヒが頷いた。
「実際は、これが狙いだからね。こうして敵を僕らに釘付けにしておけば、ジーク様たちが仕事をしやすくなる」
そこへ、一人の黒装束の男が現れた。
「ジークムント様から伝令です! 要救助者マリエル殿の身柄を保護しました! 我々は、これより砦内部の破壊に入ります!」
「さすがジーク、仕事が早いね」
うんうんとミロシュが頷いた。
「よかったな、フレデリク」
目頭を押さえているフレデリクを見上げ、リューリは微笑んだ。
「まさか、こんな日が来るなんて……私も、もう少し頑張らないと、だね」
言って、フレデリクが顔を上げた時。
地響きと共に、砦前方の地面が引き戸の如く開いていくのが見えた。
そうして生まれた空間に、地下から巨大な――人間に似た輪郭を持つ何かがせり上がってくる。
「な、何だ、あれは……?」
思わぬ事態に、リューリは目を剥いた。
「騎士団は後退して! 再度、防御壁を展開!」
ミロシュの指示により、後退した騎士団が魔法による防御壁の内部に退避した瞬間、リューリたちの目の前に、
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