第20話 大立ち回り
「俺に任せろ。君たちは、ここを動かないでいてくれ」
ローザは夫を信頼しているのであろう、平然と
「とっ捕まえて、女の居場所を吐かせてやる! ガキとババァは売り飛ばす!」
そう言うと同時に、
しかし、敵の拳は
リューリやローザを狙った者も、全てジークによって弾かれた。
「俺の奥さんをババァ呼ばわりした奴は許さん」
ジークの拳を受けた
――そうか、下手に私たちが動き回ると、却ってジークの邪魔になってしまうんだな。
リューリは、ジークの無駄のない身のこなしに半ば見とれていた。
「こ、このオヤジ、只者じゃねぇ……」
「だから言っただろう、俺一人じゃ歯が立たなかったって!」
「諦めの悪い連中だな。だが、いい口実ができた」
言うが早いか、攻勢に転じたジークの身体が疾風の如く動いた。
先刻とは打って変った、リューリの目では捉えられない技の数々で、ジークは
「相変わらず、凄いな。やはり、私の目では何が起きていたのかすら捉えられなかった。しかも、素手で……」
叩きのめされ、地面に転がって
「なに、訓練も受けていない
息一つ切らせてすらいないジークは、倒れている
「お前たち、高利貸しと結託して人身売買……おまけに『高いお薬』まで作っているそうじゃあないか。取り締まりが恐ろしくはないのか?」
まるで尋問を行っているかのようなジークの姿は、普段の優しく茶目っ気のある様子からは、かけ離れたもののように、リューリには感じられた。
彼の言葉を聞いた
「な、何だ……脅してるつもりか? お、俺たちの後ろには『山猫組』がいるんだ……役人だって、俺たちには何もできないんだ……こんなことして……タダで済むと思うなよ……」
殴られたところが痛むのか、
「おや、呆気なく喋ってくれるものだな。口を開かなければ拷問しようと思っていたんだが」
冗談とも本気ともつかない口調でジークが言うと、
「という訳で、用事は済んだよ。じゃあ、行こうか」
立ち上がったジークに促され、リューリはローザと共に、その場を離れるべく歩き出した。
そこへ、一連の状況を遠巻きに見ていた野次馬たちの中から、一人の中年男が小走りに近付いてきた。
「あんたたち、こっちへ来るんだ」
中年男が、狭い路地の入口を指差しながら手招きしている。
ジークはローザと一瞬顔を見合わせると、素早くリューリを抱き上げて、中年男に近付いた。
路地の奥まった場所に来ると、中年男が怯えた顔で口を開いた。
「あんたたち、この街の者じゃないだろ? すぐに街を出ないと命が危ないよ」
「それは、彼らが『山猫組』に関わりのある者だから……でしょうか?」
ローザが問うと、中年男は驚きに目を見開いた。
「分かっていたなら、何故逃げなかったんだ……しかも、小さな子供連れで」
男は少し呆れた様子で、リューリに目をやった。
「心配してくれたのか。ありがとう」
リューリは言うと、男に微笑んでみせた。
彼が、純粋な善意で忠告してくれたことを、リューリも理解していた。
「街の者たちは、『山猫組』の連中を、どう思っているのかな」
ジークが、中年男に問いかけた。
「良く思っている訳ないだろう。表面上は平和に見えても、奴らの都合で何が起きるか分からないから、住民たちは、みんなビクビクしてるよ。強引に金を貸してきたくせに、とんでもない利息を要求してきたり、店の売り物を黙って持っていったり、物を壊したり……警察も役人も役に立たないし」
憤りと諦めの
「ああいった組織の中には、縄張りの中の一般市民を守るというものもありますが、少なくとも『山猫組』は、そうではなさそうですね。遠慮なく成敗できるでしょう」
ローザが、男の言葉に頷いた。
「忠告かたじけない。あなたも、我々と一緒にいないほうがいいだろう。では、失礼する」
ジークの言葉と共に、リューリたちは中年男と別れた。
「やはり、早めにイレーネを街から出したのは正解だったな」
アデーレとウルリヒたちとの待ち合わせ場所へ向かって歩きながら、ジークが言った。
「私が起きた時には既にいなくなっていたが、昨日ジークたちが助けたイレーネという女性は旅立ったのか?」
リューリは首を傾げた。
「ええ、『
「そうなのか……子供の身体は、疲れやすいのと、長く睡眠を取らなければいけないのが難点だな」
ローザの言葉に、リューリは苦笑いした。
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