第17話 喧噪の中で
リューリたちが目的地への中継地として立ち寄った街では、丁度、何かの祭りが行われていた。
日が暮れてからも、華やかな仮装をした者たちの行進が行われる中、
息抜きがてらに、リューリたちも街へ出た。
ジークとローザが二人で歩きたいと言った為、リューリはアデーレとウルリヒに連れられて祭りを見物することになった。
「リューリちゃん、少し重くなったんじゃない?」
人込みで迷子にならないよう、リューリを抱きかかえているウルリヒが言った。
「たしかに、少し太ったかもしれないな。食生活が改善された為だろう」
リューリは自分の手を眺めながら、頷いた。
生家にいた頃は筋張っていた手が、いつの間にか子供らしく、ふっくらとしたものになっている。
「少し丸っこいくらいのほうが、子供らしくて可愛いと思うな」
そう言って、アデーレが微笑んだ。
「重いなら、地面に下ろしてくれてもいいぞ」
リューリの言葉に、ウルリヒが首を振った。
「いや、そんなことをしたら、あっという間に
「そうか、では、もう少し頑張ってもらうか。……ところで、ジークとローザの護衛はいいのか?」
アデーレとウルリヒの顔を見上げて、リューリは問いかけた。
「あのお二人は、そもそも護衛など必要ないくらいに、お強いからね。私たちがお供させていただいているのは、自分の修行の意味のほうが大きいんだ」
アデーレが、肩を
「たまには、お二人で過ごす時間も作って差し上げるという訳さ」
そうウルリヒが言った時、後方から足早に歩いてきた男が、追い越しざまに衝突しそうになった。
かろうじてウルリヒが回避した為、リューリも無事だったものの、男は更に前を歩いていた別の男に肩をぶつけ、そのまま去ろうとした。
と、突然走り出したアデーレが、歩き去ろうとした男に一瞬で追いつき、その腕を掴んだ。
「今、懐に入れたものを出せ」
掴んだ男の腕を後ろに捻り上げながら、アデーレが言った。
彼女には敵わないと見たのか、男は空いているほうの手で自分の懐から高価そうな革製の財布らしきものを取り出し、アデーレに渋々と渡した。
「そこの人! これ、
先刻、ぶつかられた方の男は、アデーレに呼び止められて不思議そうな顔をしたが、彼女が手にしているものが自分の財布と気付いたのか、近付いてきた。
「……たしかに、私のものです」
アデーレに手渡された財布を確かめると、男は頷いた。
しかし、その隙に、財布を
「ああ、役人に突き出してやろうと思ったのに」
「すごいな、アデーレ。私には、奴が何をしたかすら分からなかったぞ」
「ジーク様に鍛えられているし、これ位は、どうということもないさ」
リューリが感嘆するのを見て、アデーレは照れたように笑った。
「ありがとうございました。これには、大事なものも入っているので、失くしたら困るところでした」
財布を
年の頃は三十代半ばというところだろう。黄金色の髪に映える、深い青色の目が、知性を感じさせる。
「この子は、あなた方のお子さんですか?」
「えっ? いや、その、預かっている子です」
ウルリヒが、男の問いに、何故か顔を赤らめて答えた。
「そうですか。皆さんが、仲睦まじい様子に見えたもので。そうだ、何か、お礼をしないと……」
「お礼だなんて、大したことではないし、気にしないでください。
アデーレの言葉に、男は微笑みながら頷いた。
「そうですか。私の名はフレデリクといいます。こちらも、ちょっと今は時間がありませんので……また、お会いできたら、お茶でも御馳走させてください。それでは、失礼します」
フレデリクは、再びリューリに微笑みかけると、雑踏に紛れていった。
「あの人、何だかリューリちゃんのことばかり見てたね」
ウルリヒが、ぼそりと呟いた。
「あの人にも、子供……娘がいるのかもしれないな。私の父は、よその家の女の子を見ると私を思い出すと言って、すぐに甘やかそうとするらしいぞ」
アデーレが、くすりと笑って言った。
「あの方は子煩悩なだけだと思うけど、そうじゃない意味かもしれないだろう?」
「リューリちゃんは可愛いから、私だって一日中見ていたいものだがなぁ」
「アデーレって、変なところで危機感が薄いよね……」
アデーレとウルリヒの言い合いを聞いていたリューリも、何だかおかしくなって小さく笑った。
リューリたちが大道芸を見物したり、露店を冷やかしたり買い食いをしたりしているうちに、ジークたちとの待ち合わせ時間が近付いてきた。
待ち合わせ場所である、宿泊予定の宿屋の前に辿り着いた三人は、道の向こうからジークとローザが歩いてくるのに気付いた。
しかし、よく見ると、彼らは更に別の誰かを連れている。
近付くにつれ、ジークたちと一緒に歩いているのが、若い女性であることが分かった。
「あれは、知っている人か?」
リューリは、アデーレとウルリヒに問いかけた。
「いや、見覚えのない人だ」
アデーレも首を捻っている。
「もしかして、何か、いざこざがあったのかなぁ……」
ウルリヒが、少し不安げな顔をした。
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