4 『月のつきは落ちたか』
いくら激安ホテルとはいえ、これは抜き差しならぬ事態である。
当日の食堂利用者は、もちろん無料となり、宿泊代もなしになったうえ、慰謝料、さらに治療費、メンタル・アフターサービスも会社側が負担することとなった。
まやしんは、超末端とはいえ、取りあえず救助活動をしたことが評価されたのか、なぜだか賃金が倍になった。
あのおばさまは、無傷であったが、その後、すぐにホテルから、消えてしまったらしい。
『まさか、あの人が犯人だなんて☺️ ははははは。ないよな。』
そもそも、いかに月面上とはいえ、重力コントロールされていたショッピングモールの内部である。
それは、1番に、システムの異常が疑われたのである。
🖥️エッ! オラシラネ
中央管制室のアンナは、上級管制者である。
その疑いを、真っ向から向けられる立場にあった。
室長に呼ばれて、役員たちに囲まれていた。
『だから、システムに異常は無かったのは確かなんです。コンピューターも、感知していなかったのは、データレコーダーを見たんだから、分かっていらっしゃるでしょ。』
『データレコーダー自体が、正しくなかった可能性はないのかね。』
『それは、もう、わたしの管轄外ですから、何とも言えません。システム管理人に、聴いてくださいまし。』
『彼は、異常なしと断言した。』
『ちゃんと調査してます?』
『ああ、月政府がやってるよ。いいかい。これは、会社の危機だ。なんとしても、原因を突き止めねばならん。まさか、幽霊でもあるまい。』
『それはそうです。』
『操作ミスは、無かったのだね。』
『何度もチェックしましたが、今のところ人為的なミスはありません。コンピューターにも異常はないです。だいたい、食堂だけで重力コントロールが異常になるなんて、あり得ないです。みそ汁樽を持ち上げる力があれば、電子釜だって持ち上がるけど、異常なかった。でも、軽い食器は、みな翔んだ。なぜそうなるかなんて、分かりません。わたしの守備範囲では不可能です。もっと、別のところですよ。』
『じゃ、なんで、実際、みそ汁樽が踊ったのかね? こんな風に。』
また、あの映像が流れた。
みそ汁樽は、ワルツからメヌエット、ブーレ、さらに、ギャロップを踊った。
つまり、幹部たちは、なんとかして、アンナにミスを認めさせたかったらしい。
しかし、そのミスを端的には、指摘出来なかったのである。
『まったく、ついてないな。』
アンナはつぶやいた。
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