2 『晩御飯』
月の時間は、地球時間で動いている。
というのも、月の1日は、地球の1ヶ月に相当してしまうため、あまりにも実用的ではないからなわけだ。
寒暖差が極端にあり、そのままでは生きられないが、月の居留地などなら、問題なく生活できる。エネルギーは、みな、太陽から頂いている。
しかし、この『超巨大ショッピングセンター』は、まさに画期的だった。
全体が街そのものだからだ。
目に見える天井は、ある場所と無い場所がある。
どちらも、重力シールドで覆われていて、内部の大気は逃げて行かないし、少々の隕石ならびくともしない。
月の生活が様変わりしたのである。
あまりに広すぎるから、移動には鉄道が使用されるようになっている。
特に、『かぐや』と『アヤ』は、月の表側と裏側に分かれていて、その間には、高級ホテルや別荘が立ち並んでいる。宇宙生物用のホテルや別荘もある。
この間をつなぐのが、高速チューブ特急『かめさん』である。
かめさんは二段構えになっていて、上側は直通特急で、下側は各駅停車や、準急、快速などに分かれている。
さらに、センターの中には、むかしの都電とか、ちんちん電車にあたるものが走っている。
かめさんは、何か買い物をしたら、レシートが切符になるし、買い物をしてなくても、乗車料金は100ドリムである。市内電車は、タダである。
しかし、マヤシンなどは、あまり出掛けたりしない。
『まぶしくって、うっかり歩けないんだ。』
と、マヤシンは言っている。
また、月給は、二万ドリムくらいだから、あまり動けない。
だから、休日でも、近場を散歩するか、寝ていることが多くなるわけである。
さて、肝心の晩御飯である。
職場から、『かぐや食堂』の食券が三千ドリムぶん配布されている。
『アヤ食堂』は、やや高級であるから、使いにくい。
『やっぱり、みそ汁定食か、漬け物定食か、日替わり定食しかないなあ。1番安いのは、みそ汁定食だしなあ。つまるところ、みそ汁定食かな。』
と、ほぼ、毎晩そうなるのである。
みそ汁定食と、漬け物定食の違いは、みそ汁が多いか、漬け物が、多いかの違いである。
マヤシンが『かぐや食堂』に入って、みそ汁をふーふーしていると、かのおばさんが入ってくるのが見えた。
無事にチェックインしたらしい。
紙袋は下げていない。
しかし、バッグはわりに上物に見えた。
そうした女性客は珍しくはない。
『なにを、たのんだのかな?』
マヤシンは、興味津々であったが、ちょっと遠すぎる。
『まあ。いいけどね。』
と、思ったところで、事件が起きたのであった。
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