夢現

柊 真白

夢現

 目を覚ますと、光の加減で既に昼を過ぎていることが分かった。寝台の中で意識がぼんやりと浮かび、頭の重みが全身にまで沈み込んでいた。過眠症——その言葉を思い出すたび、無力感が胸を締め付ける。何度目かの遅刻、あるいは欠席。もはや罪悪感さえ薄れつつある日常に、ふとため息をつく。

 起き上がるのも一苦労だ。目の奥に残る重たい眠気が、身体の隅々まで絡みついている。制服を着るどころか、ベッドの縁に腰を掛けるだけでも、全てが遠くに感じられた。学校へ行くことができたとしても、その先で待つのは、ただ一人で過ごす時間。かつて憧れていた友達との賑やかな日々は遠い夢物語であり、現実の自分には程遠いものだった。

 校舎の中——自分がたまに足を踏み入れるその空間は、他人の世界であるかのように感じられる。教室の隅で机に座る自分。無理に笑顔を作ってみても、その仮面がひどく薄っぺらいことに気づいているのは、自分自身だった。隣席からふいに聞こえる笑い声に耳を傾けるが、その輪の中に入る勇気はとうに失われている。誰かに声をかけられることも稀で、ただ「いるだけ」の存在に成り下がったことが、自分でも理解できた。

 眠気に勝てず、頭がふらつくこともある。教室の喧騒が遠ざかり、意識が途切れ途切れに闇に落ちていく時、その瞬間だけが解放されるような気がした。そして、目を覚ますとまた現実が襲いかかる。過眠症という診断が下されても、それは単なる言葉に過ぎなかった。周囲の視線や、何かを見透かすような表情が、いつも背後で囁いていた。

 誰ともつながらない日々に耐える中で、時折「もしも友達がいたら」と思うことがあった。簡単な一言でも、自分の孤独を少しは埋めてくれるのかもしれない。しかし、そんな理想すらも現実には届かない手の中で砕けていく。いっそ、孤独を受け入れる方が楽なのかと考えることも増えた。

 薄暗くなる部屋の中で、再び眠気が訪れる。夢の中では何かが変わるのだろうか。そんな淡い期待を抱きつつ、再び意識が闇に沈む。明日が訪れても、この繰り返しが続くのだろう。明確な希望もなく、ただ沈黙の中で歩みを止めることなく、心の重みと共に歩んでいく。どこに向かっているのか、見当もつかないまま。

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夢現 柊 真白 @tokiusa18

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