筆を走らせるたびに、記憶の底から漢字がこぼれ落ちていく。
小学校で覚えたはずの熟語、教科書に刻まれたはずの画数が、今や霧のように薄れ消えた。
3級――それは中学卒業程度の漢字力を問う資格だ。
難しいわけではない。それでも試験問題に向き合うたび、記憶に空いた穴が浮き彫りになる。
簡単な熟語が読めない。書けない。筆圧を込めて書き出した「悔しい」の文字に、正しい画数が宿らない。
挑戦を始めたのは、ふとした恐れからだった。
便利すぎるデジタル世界。文字は打つだけで表れるが、その形も意味も、私の中から抜け落ちていた。
思えば、漢字はただの記号ではない。それは歴史であり、文化であり、私自身の一部だ。
練習帳をめくり、書き取りを繰り返す日々。
時にはくじけそうになる。それでも筆を取り、画数を確認し、また書く。書き続ける。
3級合格。その目標に、私は再び自分の中に文字を刻み込む。
見えなくなったものを取り戻すために、今日も筆を走らせる。