第4話 同部屋のルド
―――ガチャ、
俺が扉を開けると、その中には既に一人の金髪の若い男が入っていた。
―――ガチャ、
俺は一旦扉を閉めて考える。
えっ?部屋って一人部屋じゃなかったの?
いやまあ、それが贅沢だっていうのは分かっているんだけど想定をしていなかったから思わず驚いてしまった。
心の整理がついたところで俺はもう一度扉を開けた。
部屋は6、7畳位の大きさで、俺から見て左側に二段ベッドがあり、前方とドア付近に机が1つずつ、という構造になっていた。
「どうしたいんだい?君?人がいるのを分かっていながら扉を閉めるなんて酷いじゃないか」
「いやぁ~、なんと言いますか……」
「まあ良いや。僕の名前はルドシー。ルドって呼んでくれ。君の名前は?」
「ショウ・ミナカミって言います」
………なんだか嫌な予感がする。
「君、変な名前をしてるなぁ。名前が2つあるような感じだけれどそれで1つの名前ってことかい?」
やっぱりだ。こっちの世界の奴らはデリカシーってもんが欠けてるんじゃないか!
俺ははぁ~っと息を吐いてから答える。
「そうです、遠い地方の出身なのでここではあまり馴染みがないかもしれませんね」
するとルドは驚いたような顔をした。
「こんな最南端のところまでわざわざ遠い地方から来るなんて、ショウは物好きなのか?ちなみになんて所から来たんだい?」
しまった!名前まで聞かれるのは想定外だ。
どうしようか、、、ここは適当に
「ジャパって所から来ました」
「ジャパ?本当に聞いたことない名前だ。あと、敬語は使わなくていいよ。どうせこれから、少なくともしばらくは同部屋で過ごすんだし」
「分かりまし……分かった。ありがとう」
「うん、いいよ。そろそろお腹が減ってきたなぁ。ショウは昼飯食べた?」
確かに能力を使った疲れもあるだろうが腹が減っている。
そういえば今何時だ?そもそも時計ってあるのか?
俺がそう思ってキョロキョロ部屋の中を見渡していると、察したルドが教えてくれた。
「時間を気にしているのかい?それなら部屋に入ってきてすぐの、机があるのとは反対側の部分に時計があるよ」
俺はそれを見て時間を確認する。
――――2時か、これなら腹も減っていて当然だな。
時計の形は俺が元いた世界にある物と殆ど差異がない。
もしかすると俺以外にも過去に転移してきた人がいて技術を教えていたりしたのかもな。寧ろ、この世界に転移してきたのが俺一人だけと言う方が違和感さえある。
「飯ってどこで食うんだ?」
「この寮は三階建てで、今僕達のいる左半分が居住スペースになっている。右半分の3階が食堂と風呂、2階がトレーニングルーム、1階が講義の部屋になってるよ」
「なるほどな〜。結構考えられて作っているんだな」
「そうみたいだね。1階に講義の部屋、つまり教室があるのは講義をしてすぐにグラウンドで実践が出来るようになっているからだと思う」
俺はそれに同意するように頷く。
「そういえばこの寮には女子もいるのか?」
「当然だろう?女性冒険者がいないと人手不足が過ぎるからね。なんだい、ショウ。それとも覗きにでも行く気かい?やめといたほうがいいよ、覗きに行って退寮になったやつを僕は何人か見てる」
「行かねーよ」
俺が少しムッとして言い返すと、ルドは口元を緩ませて笑っていた。
「ふふっ、本気にするなよ、ショウ。冗談だってば。そういえばショウの『イデント』ってどんなのだい?」
質問の変化が余りにも急すぎる……
「そういうのって言って良いものなのか?」
「いいでしょ、同部屋なんだし。じゃあ聞いた僕が先に言おう。僕の『イデント』は『バリア』だよ。強度は僕の熟練度や魔力に依存するけどね」
なるほど、これは使い勝手が良くて強そうだ!勿論、前世で俺はバリアを使う妄想をしているからいくつかアドバイスできることがありそうだし。
「俺の『イデント』は『時間停止』だ。今はまだ色んな制約があるけどいずれ拡張したら『時間操作』に近くなると思う」
「へぇ、面白い能力だ!めちゃくちゃ強そうじゃないか!それに、覗きには最適な能力だね!」
おい、その話題まだ引っ張るのかよ!確かに俺も能力が『時間停止』だって分かったとき一瞬思ったけどそんな度胸ないしそもそもやらない。
俺は妄想と現実の棲み分けができる人間だ。というか殆どの人間はできると思う。
もしそれができなかったらオタク文化の根強い日本人は犯罪者集団になっちまうよ。
「ルド、そろそろ食堂に行こうぜ」
「了解!」
俺達の部屋は3階の角なので食堂までは一番近い。
すぐに食堂について中を見ると、既に大量の研修生達がいた。
男女比では男が少し多いくらいだな。
「ルド、俺はまだ初めてでよく分からないからオススメを教えてくれるか?」
そしてルドは少し考えてから言った。
「うーんと、僕のオススメはね、『ジャイアントラーナの唐揚げ定食』かな。僕も今日はこれにするよ」
ジャイアントラーナってなんだ……?まあオススメなら美味いだろう。
「じゃあ俺もそれで」
するとルドが立ち上がって、
「分かった。じゃあ僕が注文してくるから待ってて」
「いや、俺も一緒に行くよ」
「ならついてきてくれ」
俺はルドについて行き、列に並んで料理を注文すると、料理はすぐに出てきた。
出てきた料理の見た目は、元いた世界の唐揚げとあまり変わりはなく、米もほとんどそのままだった。
「美味しそうだな!それじゃあ『いただきます』」
するとルドは不思議そうな顔をして聞いてきた。
「なんだい?その『イタダキマス』っていうのは」
ああ、そうかと俺は納得してから説明した。
「これは俺のいた地方の文化で、食べる前に料理を作った人や命に感謝するものなんだ」
「いいね、じゃあ僕も『いただきます』」
俺は唐揚げを1つ食べてみると、鶏肉のようなジューシーな味だった。
―――美味い!でも鶏肉にしたらちょっと違う感じだな………あ、覚えてるぞ。転移前1回だけ食ったことのあるカエルっぽい味だ。
俺が飯をかき込んでいると、ルドが自慢げに
「美味いだろう!ここの人気No.1のメニューなんだ」
「そうだな、これは確かに美味い!」
俺達は飯を食べ終えて部屋に戻った。
「今日は講義はないからあとはゆっくりできるね」
俺は頷いて床に寝転んだ。
それから俺達はしばらく話し、風呂に入って夜ご飯を食べ、時間はすっかり寝る時間になった。
「それじゃあショウ、明日の講義と実技に備えて寝ようか」
「ああ、おやすみ」
「おやすみ」
俺は目を閉じた。
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