第3話 いざ、入寮テスト!

 例の如くバテた俺は7分ほど歩いた先に研修施設と思しきものを見た。


「でっかいなー!一体この中に何人ぐらい入ってるんだ!?」


 その研修施設は三階建てになっており、俺が通っていた私学が数個分入るのではないかと思える程の大きさだ。

 俺は正面の入り口を抜けて、受付係の人に話しかけた。


「すみません、ここで研修を受けたいのですが……」


「分かりました!新規の研修生登録ですね。まずは冒険者カードを一度拝見させていただけますか?」


 俺は受付係に冒険者カードを手渡した。

 すると受付係は大きく目を見開いて、少し興奮した様子で話しかけてきた。

 ………気のせいだろうか、全く同じ反応をついさっき見たような気がするのだが、、


「あなた、凄く優秀なステータスをしていますね!これは将来有望ですよ!」


「あの、登録を………」


「あぁ!そうでしたね、驚きのあまり忘れていました。登録まで5分ほどお待ち下さい」 


 あ、氏名はカードに記載されているからともかくとして住所とか書かなくていいのか……こっちとしてはありがたいんだけど。

 まあ細かいことは気にしないでおこう。


 俺は登録完了を待つ間、座って今の状況を整理することにした。

 取り敢えず俺はあの時車に轢かれて死んだと考えるのが妥当だろうな。

 というか轢かれた原因って妄想をしていてぼーっとしていたからじゃないか?

 ダサい。ダサすぎる。これは余りにも酷い。

 いや、こんな事を考えるのはやめよう。第一周りの人にはそんなこと分からないだろうし、今はもう関係のない世界の話だ。

 そんなことを考えているうちに登録が終わったようで、受付係から呼び出された。


「登録が完了しました。寮は突き当たって左側にあります。部屋は冒険者カードに記しているのでそれを参照してください」


 俺は冒険者カードを受け取って部屋番号を確認した。

 ―――301、一番上の角部屋か。

 俺はそれを見ながら階段の前まで来たが、そこに逞しい筋肉を持って待ち構えている40くらいのおっさんがいた。

 なんだか厄介そうな匂いがするので無視して階段を登ろうとすると、案の定服の後ろを掴まれて話しかけられた。


「俺を無視するなんて酷ぇ奴だなあ、坊主」


「誰ですか、あなた?」


「誰とは失礼な!坊主、礼儀ってもんがなってないんじゃねぇか?俺はここの指導を担当する教官のリヴァースだ。坊主、お前も名前を言ってみろ」


 手を差し出されたので渋々それを握り返して答えた。 


「ショウ・ミナカミ」


「なんだぁ坊主、ヘンテコな名前だな」


 お前も大概失礼じゃねえかよ!と心の中でツッコんだ。


「で、何のようですか?」


「それは外に出たら話そう」


 俺はリヴァース教官おっさんについていくと、そこは外のグラウンドだった。


「どうしたんですか、わざわざグラウンドまで来て?」


 教官はにやりとしてから言った。


「入寮試験だよ。まず一番はじめに研修生の力を測るんだ」


 うげっ、入寮試験!?突然すぎて何も準備出来てないんですけど!


「使ってみろよ、お前の『イデント』。いつでもどこからでもかかってきていいぜ」


 使うって言われてもまだ全然使い方とか分からないし………それを考えろっていう意図も含まれているのか?

 しばらく考えている俺を見てはっとした顔をしてから教官が話しかけてきた。


「悪い悪い、まだ使い方を教えてなかったな」


 いや、単に教えてなかっただけかい!


「技っていうのはな、技を使うイメージとその技を出すのに必要な魔力、そして『イデント』の場合なら坊主の中に生来刻まれている技名を言う事で発動されるんだ。『イデント』の発動は必要な魔力も元から備えているからな。さぁ坊主、イメージしてやってみろ!」


 遂に来たか、技を使う時が!技を使うイメージなら転移前毎日欠かさずしていた事だ!

 技名、俺の中にある技名か……探せ、頭の中を!

 そして俺は技名を掴み、右腕を前にかざしてそれを叫ぶ。


時間停止タイム・プロイベーレ!!』


 その瞬間、空を飛ぶ小鳥や風に煽られる木々の動きが止まり、世界が暗くなった。

 やった!!転移前どれだけ望んでもできなかった時間停止が実現した!

 俺はあまりの感動と興奮で発動できる時間制限の事を忘れかけていたが、運良く思い出し、教官の元に走って顔を2、3発殴った。

 どうせこのおっさんなら大丈夫だろう。

 俺は反撃を警戒して元の位置に戻ると同時に、時は動き出した。

 しかし2、3発分の威力を同時に顔にもらったはずの教官は何でもないような顔をしていた。


「やるじゃねぇか、坊主。今度はこっちの番だ!」


 すると視界から突然教官が消えた。


「は?消え………」


 言い終わる前に背中に硬い拳の感触を感じて全身に電流が走ったかのように痛みが広がり、思わず顔を歪ませた。


「………ぐぉっ、―――はあっ、はあっ」


 俺は耐えきれず地面に倒れ込んだ。

 そして背後に立った教官を睨みつける。

 普通ここまでの威力で殴るか?まだただの入寮試験だぞ?


「おいおい、坊主。そんなに怖い顔をするな。最初は誰でも通る道だ」


 誰でも通るのかよ!異世界キツっ!


「まあでも坊主、中々筋はいいと思うぜ。殆どのやつは俺に一撃も入れられず終わっちまうからな」


 教官は口を大きく開けて笑ってるいるが、これで何人かは心折れてるだろ……

 俺は力を入れて立ち上がると、教官に言った。


「でもあれは俺の力じゃなくて『イデント』ですよ」


 すると、教官は一層大きく口を開けて笑った。


「坊主、お前面白いやつだな。運が自分の力じゃないと言うやつの事は分かるが、『イデント』が自分の力じゃないっつうやつは初めて見たぜ。『イデント』はお前の才能だろ?誇っていいんだぜ」


 俺は少し照れくさかったが、教官に「ありがとうございます」と伝えた。


「入寮試験試験は勿論合格だ。疲れただろう、部屋に送っていってやるぞ」


 俺は頷いて教官の見送りを受け、自分の部屋のドアを開けた。





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