第2話 新米冒険者研修施設
「どうしたんだい、変な格好のあんちゃん?道のど真ん中なんかで寝っ転がってよぉ?」
俺は瞬きしてその声の主に目を向けると、屈強だが気の良さそうなおっちゃんだった。
「いや、ちょっと頭を打ってしまって……」
嘘である。確かに混乱はしているが頭自体はこれ以上ない快眠を終えたあとのようだ。
全く、安らかに眠るってこういう事かよ!とツッコミを入れたくなるほどである。
まあ怪しまれても仕方がないのでこれで通そう。
つーかそもそもここどこだ?俺の住む街はおろか、写真ですら見たことのない光景だ。
………まさか、異世界!?
遂に来ちまったかぁ!もしここが本当に異世界だとするなら読んでいた漫画やアニメがどうでもよくなるくらい最高だ。
「えっと……記憶の確認なんですけどこの世界って魔法とかありますか?」
「おうよ、当たり前だろ?逆にそれ以外何があるってんだ?」
まじか!?早く俺も使いてぇ〜。
溢れ出しそうになる興奮を必死に抑え、質問している立場である以上、俺は平静を装って質問を続けた。
「ありがとうございます。じゃあギルドとか魔王的な存在は……?」
「勿論あるさ。最近は魔王共の侵攻が激しくなって大変だぜ。ま、ここはこの世界の最南端に位置する街だからまだマシだけどな」
まぁ魔法があるんならそうだろうな……でもやっぱり魔王がいるなら安全って訳では全然なさそうだ。(おっちゃん最近侵攻が激しいとか不穏なこと言ってるし……)
「なるほど……では早速ギルドで冒険者の登録をしたいのですがギルドってどこにありますか?」
「ここから北に500メートルくらい歩いたところにあるぜ」
やった!クラス?役職?どっちでもいいけど何に就こうかな?
「色々とありがとうございました。では、また」
俺がそう言って手を振るとおっちゃんは手を振り返してくれた。
そして俺はギルドに向かって全力疾走した。
―――――――――――――――――
そして4分ほど歩くと(調子に乗って全力疾走したらすぐバテた)おっちゃんの言っていたギルドらしきものが見えてきた。
「これがギルドか……思ったよりもでかいな」
俺は中が気になるのですぐに入ってみることにした。
すると中には談笑している冒険者の集団、情報交換をしているであろう人達、クエスト募集板を見て話し合う者などが見えた。
「おぉ、これはまさに異世界来たって感じだな!」
テンションが上がってつい大きめの声で言ってしまったが、幸い他の冒険者達は話しているので聞こえなかったようだ。
それと、先程は気にならなかったが異世界語は俺の知る日本語として脳に入ってきているな。
おそらくは転移してくると同時に脳に読み込まれたのだろう。俺がこんなアニメを観ていた時はまさにご都合展開極まれり、と感じていたが実際、こういう最低限必要な能力は予め手に入るものなのか。
俺がそんなことを考えて一人で頷いていると俺が困っているように見えたのか、ギルド職員の方が話しかけてくれた。
「ようこそ!ノートスタウンのギルドへ。今日はどのようなご要件でいらっしゃったのでしょうか?」
「今日は冒険者登録をしたくて来ました」
「それならば正面のカウンターに行って詳しい話を聞いてください」
「分かりました。ありがとうございます」
俺はカウンターに行ってギルド嬢に要件を伝えた。
「新規冒険者登録ですね。でしたら、今から白紙の冒険者カードを渡すので、それを右手にある魔導具『アービター』の差し込み口にいれてから手を触れてください」
俺は言われたとおりの手順で手を触れた。すると、その魔道具は青く光り出し、30秒ほどしてから光が収まると同時に冒険者カードが出てきた。
はじめはなかった焼き印がついており、なにか書かれているようだ。
「では、冒険者カードについて説明いたしますね。まず5つに分かれている部分を説明すると、ここはあなたの能力の『知力』、『筋力』、『体力』、『敏捷性』、『幸運』の5項目をS〜Eの6段階で鑑定します。そして、各個人に生来刻まれている固有能力『イデント』と
、その能力を反映させた適性クラスが表示されます。一度、カードを確認してもよろしいですか?」
「勿論です」
そして俺のカードを見たギルド嬢は大きく目を見開いて、かなり興奮した様子で話しかけてきた。
「これは凄いステータスですよ!」
「具体的にはどのようなところがですか?」
「『知力S』、『筋力B』、『体力D』、『敏捷性A』、『幸運B』ここまででも体力以外はこのギルドでトップ5に入るくらいかなり優秀ですが、特筆すべき点はやはり『イデント』。あなたの『イデント』は『時間停止』です」
まじか!時間停止なんて当たりも当たり、大当たりじゃないか!
「現時点だとあなたの魔力に対して相対的に強い魔力を纏うことで無効化できたり、停止時間は一回10秒、クールタイムも1分など様々な制約が存在しますが、能力の成長に合わせて工夫次第ではかなり強くなれる能力だと思います!」
「本当ですか!?どのくらい強くなれると思います?」
そうですねぇ、とつぶやいて顎に手を当てて考える姿勢をとってから彼女は言った。
「魔王討伐も夢じゃないと思います!」
え?そこまで?だって体力Dだよ?そう言ってもらえることは嬉しいけれど。
今気づいたがギルド嬢が1回喋るたびほとんど全部に心の中で反応してるな……恥ずかしっ!でも止まらねぇ!
「さらに適正クラスは全てのクラスです。最終的には一つに決めるので、多ければ良いというものではありませんが、これが時間停止の有用性の幅広さを証明しています」
全てのクラス!?こりゃあ最高に夢があるってもんだ。
「ご説明ありがとうございます!ではクエストはどのように受ければよいのですか?」
「お待ち下さい!新しく冒険者に登録した方は初めに『新米冒険者研修施設』に行く必要があります。大まかに敵の特徴の説明を受けたり、クラスにもよりますが魔法の基礎や体術を学んだり、基準を満たすまでトレーニングしたりする必要があります。」
なるほどな……俺が見ていたようなアニメでは冒険者になってすぐにクエストに行くイメージがあったけれど冒険者としての基礎を学ぶことはクエストでの死亡率を下げるためにも重要だ。
「その研修はどのくらいの期間行うんですか?」
「多くの方が半年以上かけて研修します。敵の特徴や魔法の原理などを答える試験に合格し、ステータスが一定を超えれば抜けられるので早い方は2、3ヶ月で研修を終える人もいます」
ほえ~異世界の教育は未発展のイメージが強かったけれど実際はちゃんとしているんだなあ。
「あ!そういえば費用ってかかったりしますか?」
「いいえ、費用はなしで研修をすることができます。魔王を討伐することを期待した国からの投資ですね」
よかった!まだ転移してきたばかりで一文無しだったから費用を求められたらほとんど詰みだった。
「新米冒険者研修施設はギルドから東に1キロ程のところにあります。かなり大きな施設なのですぐに分かると思いますよ」
「ありがとうございました!それでは、行ってきます!」
「いってらっしゃいませ。どうぞお気を付けて」
俺は頷いてから施設に向かって駆け出した(全力疾走)
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