GENESIS/UNDER the WORLD

一発当たり屋

第1部 研修編

第1話 人生の終わり、冒険の始まり

 突然だが、『人生』とは何だろうか?


 愛の喜びを知って死の悲しみを知って、出会って別れてを繰り返して成長すること?


 うん、まあ確かにそうだけれど、ボクが聞いているのはもっと根本的な話だよ。まあいい、これから語られる話は『人生』の縮図とも言えるからね。答えは最後にあるさ。


 その物語は、誰かが理不尽を一身にもらい受け、他の誰かがその理不尽を罪として背負う物語。

 それは、死んでも死にきれない少年が希望を目指し、絶望に抗い続ける物語。

 故に、この物語の結末はある人物にとってのハッピーエンドであり、ビターエンドであり、バッドエンドである。

 その少年の旅の過程と結末は、君たち自身の眼で見てもらうことにするとしよう。


 そしてこれは、ボクだけが知る物語。他には誰も知らないし、他の誰にも語れない。



 ジリジリジリ、ジリジリジリ………ピッ


 まだはっきりとしない意識のまま、けたたましく鳴る目覚まし時計に片手を伸ばし、その音を止める。すると、下から母さんの声が聞こえる。


「起きた〜?いつまで寝てるの!?ご飯できたから、早く来ないと遅刻するわよ!」


「はいはい、すぐ行くよ」


 寝坊してしまったのは、おそらく寝る前にお気に入りの漫画の3周目を読んでいたからだろう。

 枕元に置いてあったその漫画を大量に漫画の置かれた本棚に戻すと、丁寧に並べられたフィギュアに行ってくるね、と囁いてからリビングに向かった。


 俺は朝食を済ませ、学校に行く準備をする。フィギュアに話しかけるのは気持ち悪いしきっと頭も悪いのだろうと思うかもしれないが、勉強は趣味とも言えるのでむしろ成績は悪くない。

 勿論ガリ勉ということもなく、学校では専らオタク友達と話して愉快な、というより愉快すぎるくらいの学校生活を送っている。

 そうこうしているうちに準備は終わり、玄関に立った。


「それじゃ、行ってきます」


「いってらっしゃい」


 そんないつもの言葉を交わして外に出た。

 そして俺は最寄り駅まで行き、電車に乗る。

 俺の通う学校は家から電車で1時間ほどのところにある。

 その学校は都会からは少し離れたところにあるということもあり、朝の通勤・通学の時間帯でも座席に座ることができる。

 今日もまた座席に座り、バッグからイヤホンを取り出すと携帯に接続し、耳に装着した。

 こうして好きな音楽を聴きながら好きなゲームをプレイするのが、俺のささやかな幸せの一つである。

 音楽の狭間に聴こえたドアの開閉音に気づくと俺は電車から降り、学校に向かう。

 その道中でオタク友達の1人が話しかけてきた。


「お前昨日のアニメ、リアタイで見た?作画マジでエグかったぜ!」


「やっべ忘れてた!俺昨日それの原作読み返してたんだよ〜アニオリとかあるかもしれないからネタバレしないでくれ!!」


「委細、承知つかまつった!」


「そのセリフなんのやつだっけ?」


 俺達はそんな他愛もない話をしているうちに学校に着いた。

 出席確認をして適当に午前の授業を終えると、昼メシは屋上で数人のオタク友達と集まって話す。

 一概にオタクと言っても色々な種類がいるうえ、その中で好きなジャンルも分かれるので、色々な話が飛び交ってやかましい。

 まあそれが楽しいんだけど。

 このようなオタクの集まりでは、やはり全員が分かるネットミームの話題が1番盛り上がる。


 楽しい時間はすぐに過ぎてしまうもので、昼休みは終わってしまい、午後の授業が始まった。

 だが午後の授業は午前よりも短いので、放課後何をするかを想像しているうちに終わっていた。

 そして放課後になり、荷物をバッグに詰め込んで学校を出る。

 登校時は友達と話しながら歩くが、下校時は疲れているのもあり、超能力などを使う妄想をしながら1人で帰ることが多い。

 使う超能力の種類も多数あり、瞬間移動、透明化、時間停止、空間操作などである。

 今日は時間停止を使う妄想をしながら歩いていた。

 あ、一応言っておくが、時間停止は別にやましい方のやつじゃないからな。

 すると突然、友達の

「翔!危ない!!!」

 という声が聞こえ俺があーはいはい、ここで時間停止、と言い終わる間もなく体の左側から強い衝撃を受けた。


 

 俺の意識はそこで途絶えた。

 





 ショウの同級生へのインタビュー


 Q彼は一体どんな人でしたか?


 Aどんな人、ですか………。まあ一言で言えば変な人ですかね。情がないという感じではないんですけど、同級生にしたら達観しすぎているようなことをよく言いました。勉強も趣味とか言ってましたし。そう思ったらただの厨二病のオタクで、妄想好きだったりして。結構一緒に遊びに行っていたんですが、彼の本質までは理解できませんでしたね。でも、まあ―――


 ―――――なんだかんだ熱い、いい奴でしたよ。


 インタビューに応えた少年の声は震えていて、目元も赤く腫れていた。








―――――――――――――――

 目を開けると、そこは暗闇だった。暗いのでよく確認出来ないが、真っ逆さまになって落ち続けているような感覚だ。


 ………え、俺死んだ?車に轢かれそうな所を能力を使って華麗に回避、って妄想じゃなかったの??



 ――――えぇ……………

 まさか自分の最期がここまで情けないものだとは思っていなかった。一応これでも、自分自身の生き方に誇りは持っていたのだ。

 そこそこ名のある私学に通っていたので、そこそこの企業に就職して、そこそこ出世して、そこそこの幸せを感じながら生きていくものだと勝手に思っていた。

 ―――人生、何があるか分からないもんだな。


 親より先に死んだ子は賽の河原で石積みだっけか?俺は単純作業が苦手だから、できればノータイムで来世に送ってほしい。

 そんなものがあればだけど。

 ―――あー、あとフィギュアとか漫画とかせっかく小遣い貯めて買ったのにな。

 完結まであと少しだった作品もいくつかある。

 最後まで読みたかったなあ。

 目を再び閉じる前、揺らぐ意識の中少年が最後に思ったことは、

「ああ、本当にほんの少しだけでも時間が止められたらよかったのに」

 ということだった。

 そして少年は、ゆっくりと目を閉じた。


















―――――――――――――――

「………んちゃん、あんちゃん?」

 俺はまた、ゆっくりと目を開ける。そして目の前に広がった景色はアニメやゲームの中でしか見たことのないような、すぐに形容するには難い光景だった。

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