GENESIS/UNDER the WORLD

一発当たり屋

第1部 研修編

第1話 人生の終わり、冒険の始まり

 ジリジリジリ、ジリジリジリ・・・ピッ


 まだはっきりとしない意識のまま、けたたましく鳴る目覚まし時計に片手を伸ばし、その音を止める。すると、下から母さんの声が聞こえる。


「起きた〜?いつまで寝てるの!?ご飯できたから、早く来ないと遅刻するわよ!」


「はーい、すぐ行くよ」


 寝坊してしまったのは、おそらく寝る前にお気に入りの漫画の3周目を読んでいたからだろう。

 枕元に置いてあったその漫画を大量に漫画の置かれた本棚に戻すと、丁寧に並べられたフィギュアに行ってくるね、と小さく言ってからリビングに向かった。


 俺は朝食を済ませ、学校に行く準備をする。受験まではあと1年だというのにモチベーションがわかない。

 しかし学校自体はオタク友達もいて楽しいものなので、勉強はそのついでだと考えてやっている。

 そんなことを考えているうちに準備は終わり、玄関に立った。


「それじゃ、行ってきます」


「いってらっしゃい」


 そんないつもの言葉を交わして外に出た。

 そして俺は最寄り駅に着き、電車に乗った。

 俺の通う学校は家から電車で1時間ほどのところにある。

 その学校は都会からは少し離れたところにあるので、朝の通勤・通学の時間帯でも座席に座ることができる。

 今日も座席に座ることができたので、バッグからイヤホンを取り出して携帯に接続し、耳に装着した。

 こうして好きな音楽を聴きながら好きなゲームをプレイするのが俺のささやかな幸せである。

 そして俺は電車から降り、学校に向かっていると、オタク友達の1人が話しかけてきた。

「お前昨日のアニメ、リアタイで見た?作画マジでエグかったぜ!」


「やっべ忘れてた!俺昨日ソレの原作読み返してたんだよ〜アニオリとかあるかもしれないからネタバレしないでくれ!!」


「委細、承知つかまつった!」


「そのセリフなんのやつだっけ?」


 俺達はそんな話をしているうちに学校に着いた。

 出席確認をして憂鬱な午前の授業を終えると、昼メシは屋上で7人ほどのオタク友達と集まって話す。

 一概にオタクと言ってもアニメオタク、音ゲーオタク、Vチューバーオタクなどがいるうえ、その中で好きなジャンルも分かれるので、色々な話が飛び交ってやかましい。

 まあそれが楽しいんだけど。

 このようなオタクの集まりでは、やはり全員が分かるネットミームの話題が1番盛り上がる。


 楽しい時間はすぐに過ぎてしまうもので、昼休みは終わってしまい、午後の授業が始まった。

 だご午後の授業は午前よりも短いのでなんとか乗り切ることができた。

 そして放課後になり、荷物をバッグに詰め込んで学校を出る。

 登校時は友達と話しながら歩くが、下校時は疲れているのもあり、超能力などを使う妄想をしながら1人で帰ることが多い。

 使う超能力の種類も多数あり、瞬間移動、透明化、時間停止、空間操作などである。

 今日は時間停止を使う妄想をしながら歩いていた。

 すると突然、友達の

「翔!危ない!!!」

 という声が聞こえ俺がえっ、と言い終わる間もなく体の左側から強い衝撃を受けた。

 俺の意識はそこで途絶えた。

 


















________________

 目を開けると、そこは暗闇だった。暗いのでよく確認出来ないが、真っ逆さまになって落ち続けているような感覚だ。

………俺は死んだのか。

 何も見えないという状況が少年を冷静にさせていた。

 俺には怒りも悲しみも無かったが、やり残したことがあるという後悔だけは残った。

 そこそこ名のある私学に通っていたので、そこそこの企業に就職して、そこそこ出世して、そこそこの幸せを感じながら生きていくものだと勝手に思っていた。

―――人生、何があるか分からないもんだな

 それに母さんも父さんも弟も置いてきてしまった。

 親より先に死んだ子は賽の河原で石積みだっけか?俺は単純作業苦手だからな。

 できればノータイムで来世に送ってほしいな。

 そんなものがあればだけど。

 ―――あー、あとフィギュアとか漫画とかせっかく小遣い貯めて買ったのにな。

 完結まであと少しだった作品もいくつかある。

 最後まで読みたかったなあ。

 目を再び閉じる前、少年が最後に思ったことは、

「ああ、ほんの少しだけでも時間が止められたらよかったのになぁ」ということだった。

 少年はゆっくりと目を閉じた。


















________________

「………んちゃん、あんちゃん?」

 俺はゆっくりと目を開ける。そして目の前に広がった景色はアニメやゲームの中でしか見たことのないような光景だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る