8


胸元の大きなリボンが特徴の赤いワンピース……シンデレラが着ていたような、透明感が美しい水色のドレス……レースが可愛い白いブラウス…………うーん、悩むね。


持ち物の量と金の問題で買えるのは上限2着までだと思ってる。ブラウスとスカートは上下セットだとして、2セットまで。下着類はサイズが合ったモノを適当に買い物カゴに放り込んだ。勿論、所持金の負担にならない程度に。


あれ……? ちょっと待って。


(ズボンが一着も売ってない……)


男がいないから、当たり前か。いや、女の子でもズボン履くよね? 可愛くないから、ダメなのか……。



――て、値段高っ!

値段をさっきから気にしてなかったねこりはびっくり。はちみつの約100倍の値段です。


ねこりがじーっと値段のタグを凝視していると。


「――試着、してみますか?」


店員さんに声を掛けられた。


「は、はい……」

「猫獣人さま用の衣服はこちらになります」


そもそも、衣服コーナー自体、間違っていたらしい。


て、猫獣人って可愛くない!!


もしかすると、もしかしなくてもというワードはねこりの地雷なのかもしれない。


「猫耳美少女とお呼び下さい! お願いします」


ペコリ、と頭を下げる。本当に猫獣人という言い方はせない。


「失恋致しました。猫耳猫しっぽ美少女さま」

「猫しっぽ要らない!」

「猫しっぽ、生えてるじゃないですか。とても可愛らしいですよ?」

「そういうことじゃ……(ないんだよね)」


ねこりは小さく呟く。



――衣服コーナーを移動し、試着を終えたねこり。


「可愛い、ですか?」

「めっちゃ可愛いですっ! 抱きしめたくなるほどに」


同性でも抱きしめたくなるくらいなのか……。じゃあ、異性だともっと、もっと――。


「抱きしめても、いいですか?」


店員さんの瞳がうつろになっている。やばくない? うっとりしてるよ。迫られるのは同性でも怖いよ。


「ダメに決まってるじゃないですか! 店員と客ですよ」

「そうでした」


お金を払って、店から立ち去ろうとした刹那――


「お買い上げ、ありがとうございます。きっとデートの際、100%彼女さんにと言われると思います、そのコーデなら」

「わたし、彼女も彼氏もいないんですが……」

「え――」


店員さんはひどく驚いていた。


次に「じゃあ、私があなたの彼女になってあげる」とか言い出すのだろう。そう察知したねこりは素早く店から退散した。


ねこりが買った衣服は今着ている、メイド服っぽい白と薄ピンクを基調としたワンピース。それから、黒いブラウスに黒のミニスカートというゴシック風な服。ねこりにしては大人っぽい。靴下も十字架の模様のある、黒の靴下を買ってしまい、ちょっぴりってしまった。


白い地味なノースリーブのワンピースは脱いで、袋にたたんでしまった。


――馬車に再度揺れる。もう時刻は夕方。

馬車から見える人々も少なくなってきている。夕焼けが綺麗で眩しい。


そっか……ここに来てから、一日が経つのか……。なんか、日本に戻りたくない。

久しぶりに吸った、澄んだ空気はとても美味しかった。それに――これは根拠のない直感だけど、ここでなら引きこもらない気がする。

ここの人たちはみんな良い人ばかりだったし、それにねこりは自然を求めていたんだと思う。日本の都会の薄汚れた空気じゃなくて、異世界の自然豊かな美味しい空気を吸いたい。


そんな物思いにふけっていたら、見間違いかは分からないけれど、気になる光景を目撃してしまった。


次停まるスポットはねこりが住み始めたログハウスの1個手前。


だけどっ――


「降ります」


――助けなきゃ!


反射的に身体は動いていた。


急いで馬車から降り、に向かう。


そこで何が行われていたのかというと――。


「助けて下さい!」


少女は叫ぶ。


でも、叫んでも叫んでも、不良少女らに蹴られるのは変わらない。少女は土にまみれて、ひどく汚れている。


こういうの見るのは胸が痛いな。日本でもそういやあった。ここの人たちはみんな良い人で優しいのかと思ってたけど、それは勘違いだったようだ。なんだか悲しい。


「離して!」


少女は腕を両側から強く引っ張られる。


目に涙を浮かべているその姿は何とも痛々しい。


そう、そこではエルフの少女が不良少女らから暴行を受けていたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る