第3章 出会い―フーラ編―

7


ねこりは川沿いを歩いていた。

依然として、川に魚は泳いでいないし、空を飛ぶ鳥もいない。


すれ違うのは女性ばかりで、当然ながらねこりの知り合いは誰一人いない。


だが、ボーっと歩いていると前からやってきた、おばさんに声を掛けられた。


「こんにちは」

「こ、こんにちは」

「この辺では見かけない子だねぇ……隣国からやってきたのかい?」

「いえ、異世界転移です」

「い、いせ……? てんい? 何だって?」


不思議そうに首を傾げるおばさん。

まあ、当然の反応だろう。ここの街の人からしたら、ここは現実世界なわけで。ファンタジー作品をたしなんでいない限り、異世界というワードは知らないはずだ。


「何でもないです。すみません。あの、服とか食料品が売っている場所はご存知ですか? もしよかったら、教えてほしいです」

「あー、それならこのまま真っ直ぐ歩いて、白い天使のオブジェが見えてきたら、そこを左に曲がれば食料品売り場があるよ。服飾店はデパートの中にしか無いかもね」

「ありがとうございます。ちなみにデパートは何処にありますか?」

「馬車で約三十分掛かるね。馬車に乗るといいよ」

「あ、ありがとうございます。助かります。お礼と言っては難ですが、良ければ受け取って下さい」


そう告げ、ねこりはハニーカフェテリアで買った、はちみつのど飴を1個おばさんにあげる。


「これ、毒とか入っていないわよね?」

「ど、毒ですか……」


慎重派の方なのだろうか。それともこの世界、毒殺事件とかが横行おうこうしているのだろうか。怖い……。


「なんて冗談よ。そんな難しい顔しないで」

「……は、はい」

「ありがとね、のど飴。気をつけて行ってらっしゃい。ご武運を」

「こちらこそありがとうございます。行ってきます」


――再びねこりは歩き出す。

しばらく歩いていると、おばさんの言う通り、白い天使のオブジェが見えてきた。


何年も経っているはずなのに、真っ白で清潔感を保っているオブジェ。きっと、定期的にマメな手入れがされているんだな、と感心する。

本当に国の中心ってかんじがして、人も多く、街も華やかだ。


ここを左に行けば、食料品売り場があるのね――。



――あった、あった!


そこには野菜、肉、魚、パン、米、麺類、お菓子……なんでも揃っていた。


ん? でも何で生き物が人外の生物しかいない世界なのに、肉と魚が売ってるの?

ねこりは不思議に思う。


「いらっしゃい! 何が欲しいかい?」

「最初に質問いいですか? なんで魚と動物と鳥がいないのに、肉と魚が売っているんですか?」


まさか人肉とかそういうのじゃないよね!?


「輸入ですよ」


輸入か……。そっか、そっか。――え?


「ここ一帯では漂う魔力が強すぎるあまり、異種族しか住めないのよ。人間も魚も動物もね」

「ねこり、人間で――」

「お前さん、猫獣人じゃないかい」


そうだったぁー! 猫耳猫しっぽ生えてるんだったぁー!


すっかり前世が人間だったから、その事実を忘れていた。


あ、でも、猫獣人じゃなくて、猫耳美少女って言ってね? そっちのほうが可愛いから。


「それで、買うモノは決まったかい?」


――ねこりは夕飯のロールキャベツに使う食材と一服いっぷく出来るコーヒーなど、計20点以上の食料品を買ってしまった。

お陰様で両手が塞がってしまった。


これじゃ、衣類の袋も持てるかな?

一旦、帰る? いやいや、頑張ろう。


「毎度ありー」


そうして食料品売り場から離れた。


「――馬車乗り場……馬車乗り場…………」


闇雲に馬車乗り場を目指して歩く。

――すぐに、馬車乗り場は見つかった。


御者ぎょしゃさんくらい紳士だったらいいのに、とねこりは思うが御者もポニーテールの可愛らしい女性である。なんか、物凄い非現実感。


馬車に乗る前に代金を払う。


「――デパートのある所って分かりますか?」

「ソンリュ地区ですね。ここから3スポット目で着きます」

「ありがとうございます」


馬車に乗りながら、はちみつを舐める。


(ん〜、美味しいっ!)


幸せってこういう所で感じるんだな。

馬車から見える情景も綺麗だし。


馬車に揺られること、約三十分。

やっと目的地――ソンリュ地区――に着く。


おー、ここにも女性がいっぱい。

でもねこり、イケメンに会いたいよぉー。

え? 、ひょっとして男性って漂う魔力が強すぎるから、一人もいないの?


――ねこりさん、半分正解です。男性は何故か男性避けになってしまった、が発した魔力が原因でこの世界に住めずにいるのです。


デパートに入る。


案内板を確認すると、服飾売り場は三階。


――エスカレーターに乗って三階まで辿り着く。


そこにはオシャレな服がいっぱいあった。


「わー可愛い!」


でも、こんな可愛い服着て街歩いてたら、襲われないかな? ナンパされないかな?


女の子しかいないから、それは無いよね!?


――いや、彼女は全否定しているが、無いとは限らない。

だって、この世界の女性――ねこり以外――は皆、恋愛対象がなのだから。

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