さいかい 【カクヨムコン10 短編創作フェス①「試験」】

結音(Yuine)

誓いの言葉

 ぼくは、たたかれた。

 何回も、たたかれた。

 何万回とたたかれた。



 ここに連れてこられた時、仲間達と誓った。


『耐えて、再び、会おう』と。


 あるものは、寒い寒い部屋に連れて行かれた。

 あるものは、暑い熱い部屋に連れて行かれた。


 あるものは、水をかぶせられ

 あるものは、落下させられた。


 この厳しい試験を合格パスしたならば、ぼくたちには輝かしい未来が待っているのだ、と 先輩達からは聞かされている。

 ぼくたちの使命は、この試験を合格パスしてこそ、果たせるものなのだ。


 もし万が一、抜けてはいけないトンネルをすり抜けてしまったら、

 ぼくたちは、大きさを変えなければならなくなるだろう。


 もし万が一、振動に耐えられなくてを手放してしまったら、

 ぼくたちは、破棄されてしまうかもしれない。


 また、出直しだ。

 何度も

 何度も何度も

 たたかれて、

 落とされて、

 冷やされて、

 熱せられて、

 水をかけられ

 放置されても。


 耐えて、耐えて、耐えてこそ、


 ぼくたちは、『安全』だと証明される。


 万が一なんて、あってはいけない。

 万が一で、笑顔にすべき対象者の命を奪ってはいけない。


 とがっていては、いけない。

 ゆるんでいても、いけない。


 厳しく、厳しく、厳しくチェックされなければ、

 ぼくたちの使命は果たせない。



 ぼくたちには、

『子どもたちを笑顔にする』という崇高な使命があるのだから。



 ぼくたちの受ける試験は、生半可なものじゃないんだよ。

 そして、

 現実は、試験よりも もっともっと厳しいものだ、と。外界に出てから気付かされるのさ。


 試験のほうがよっぽど なまやさしいものであった、と。

 再生リサイクル工場にきた先輩達はこぼしているそうだよ。




 ぼくは、まだ明日みらいに夢をみているけど、ね。




 ねぇ、

 あんなに試験をがんばった ぼくを迎えに来てくれるのは、

 誰?


 ぼくは、待っている。



 ぼくが笑顔にする その子どもが訪れてくれることを。




 ぼくは、ここで

 毎日、はたきでたたかれながら、

 が迎えに来てくれることを 夢見ているよ。




 さぁ、

 今年こそ、

 一緒に祝おうよ。


『Merry Christmas!』








 今年こそ、言ってみたいよ。









 お願い。

 割引のシールをぼくに貼らないで。





















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