第2話 夢

神官様からいただいた指輪をすぐに左の人差し指へとつける。周りに誰も止めようとはしない、それほどまでに僕とこの指輪には興味がないようだ。


指輪をはめると一瞬指輪から、白い閃光が走ると僕の指に馴染んだようにぴったりとはまった。


指輪をつけていないかのような自然な感覚だ。


「おぉ・・・」


左の人差し指を撫でても、指輪の感触すら感じない。


「ほら下がりなさい。次の者の邪魔になる」


「は、はい」


指輪をくれた神官のおじいさんに促され、後ろに下がる。その時、次の順番待ちの普通の家庭と思われる可愛らしい女性の順番になり、すれ違うと・・・すぐに指輪を買うという声が声高々に周りから上がっていた。まだ指輪すら授けてもらっていないにも関わらずだった。


「・・・別にいいさ、僕の相棒はこいつだ」


周りの反応なんて期待していなかったが、こうも落差があると少し堪えるが・・・気にしないように努める。


指輪を貰った帰り道、高く登る太陽を背に手をかざして透かしながら指輪を見つめる。


「これで・・・これがあれば僕も冒険者だ・・・」


だけど一つの問題が。指輪の能力の使い方が分からない、祖母もつけていないから聞く人がいない


それに誰一人として、僕らに親切にしてくれる人はいなかった。というよりも僕が住んでいるこのカルラ村はほとんどが貧乏な村で人に親切にする余裕がない。


荒れた大地で少量の作物を育て、毎日飢えている人で溢れている。


その日暮らしていけるかどうかも分からない現状だった。


指輪が手に入り浮かれていたが、今日の夕食を調達して帰らなければいけない。今にも折れそうな弓と、矢が2本だけの矢筒を背負い、今日の夕食探しに村を出ることにしたのだった


村から出るとすぐに開けた大地となっているが、緑豊かとはいいがたい。木々は枯葉て、山々は岩肌がむき出しになってしまっている。


そんな環境で狙う獲物は砂ネズミという30cmほどの生き物。


砂ネズミを夕暮れまで探しまわるが、簡単に見つかる訳ではなかった。巣穴を見つけ煙であぶり出したり、巣穴ごと窒息させるかの獲り方だが巣穴自体ここらの物は取りつくされている為数は少なかった。


「・・・今日も収穫無しか・・・ん」


3日連続の坊主で家路に着こうとしたが、カラサギ鳥が目の前に降り立ち地面にいる虫を啄んでいるのに出くわす。


よっし・・・


岩陰に隠れて弓に矢をセットする。この残りの矢も何回も回収しては使っている為真っすぐ飛ばすのも難しくなっている。


真っすぐ飛ばない癖を考慮し、狙いを定め・・・パシュッと鈍い音を立てながらも矢は飛ぶ。


矢がカラサギ鳥の首を貫通すると、カラサギ鳥は声を出す間もなくパタリと倒れた。


「やった!」


岩陰から身を乗り出して、獲物を確認しようとした時にカラサギ鳥から白い泡のような光の粒子が僕の指輪に吸い込まれれるように飛んでくると、そのまま指輪に吸収されていった。


「おぉ・・・これが命の光・・・というものなんだ」


何度かカラサギ鳥を狩ったことはあったが、この現象がおきたのは今日指輪をつけて初めての事だった。だからなんだというのだが、そういう現象があるというのは小耳に挟み聞きかじっていた程度だ。


カラサギ鳥から矢を引き抜くと、そのまま背中に背負い村に帰ることになった


「今日は、ばあちゃんにどやされなくて済むな」




今日の成果に満足しながら、村のはずれにあるひと際ボロボロな家へと帰宅。


「ただいまー、帰ったよー」


「おかえりーノエル、指輪は売ったかい?」


開口一番にそう聞かれるのも無理はない。今日はそういう日なのだから。


「売らないっていったよね?ほらもう付けちゃってるよ」


「!?全くノエルは言う事一つも聞きやしないんだから!・・・でも、みすぼらしい指輪だね。売っても銀貨5枚になるかならないかだわね」


「もうばあちゃんまでそんな事言わなくたっていいじゃん!それにほら!カラサギ鳥今日はとれたんだから!」


他人にどうこう言われるのは気にしないが、流石に身内にまで乏しめられるのは傷つく。指輪よりも今日の獲物へと話を移すように、足を持って見せつける。


「おやおや、指輪よりよっぽど価値があるじゃないのさ。これで夕食の準備するからまってなさい」


指輪の事なんて忘れたかのように、僕から鳥を奪うとすぐに調理を始めるために羽をむしり始めた


僕はその羽根を集め、新しい矢を作りながら食事が出来るのを待つ事に


「ばあちゃん、指輪の使い方知ってる?」


「さあ?しらないねー」


「だよねー・・・じいちゃんも指輪つけてなかったんだっけ?」


「・・・どうだったかね忘れちまったよ」


ばあちゃんはじいちゃんの事になるといつも口をつぐんだ。生きているときに父さんにも聞いたが、父さんもじいちゃんは物心ついた時にはいなかったと言っていた。


人差し指にはめた指輪を眺めながら、この指輪にどんな可能性が詰まっているのか夢が膨らんだ。

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