瞬間移動がやりたくて~魔法の指輪編~

@streatfeild

第1話 魔法の指輪

水の水滴がポツン、ポツンと上からしたたりおち、僕の顔に当たり弾けている


「うぅ・・・」


意識が徐々に覚醒しだすと、自分の身に何が起こったのか嫌でも思い出さされる



一週間前


「ほら、君の相棒だ受け取るとよい」


神殿の台座の中央に突如、光と同時に僕の目の前に現れた一つの指輪。


老齢な白髪まじりのおじいさんからそう言われ、不思議な現象に戸惑うが手を伸ばし指輪を掴んだ。




この世界では15歳の成人を迎える歳のときに、各町にある神殿で指輪を渡されるようになっている。


一度、指につけると取り外しが出来ないのは、つけた指を斬り落としたりしても同様だ。指輪を指ごと斬り落とせば、指輪は砕けてなくなってしまう。


その為、指輪は生涯に基本一人につき一つという特別な物だった。だが、指輪を一つ以上も手にする方法はある・・・。




僕が受け取った、このシルバーの何も模様も何も装飾もついていないただの輪っか。シルバーなのだが、光のあて具合により少し青みを帯びているようなないような・・・そんな普通の指輪だ。


この指輪授与には僕以外にも回りに、隣町からきた貴族や、成り上がりの商人などもいてその指輪を買い取ろうとしている人達がいた。指輪は着ける前なら、人に渡す事が出来る。だからお金を持っている人達なら、指輪の2~3個はつけている。


そんなやつらが、僕の指輪を僕と少し離れた位置で品定めするかのように話声が聞こえてきていた。


「くくく、なんだあのみすぼらしい指輪は」


「そうですな、あれは見た目からして能力もごみでしょうな」


指輪の能力は空を飛べたり、火を出せたりと色んな事が出来る為、見た目では判断できないと思うのに・・・、やつらは見た目だけで僕の指輪をゴミだと判定していた。


僕の指輪を見た時から周りは失笑しているのだ。指輪は小さい為、近くのやつら以外は見えてはいないだろうからほぼ僕の身なりで決めつけているようなもんだろう。


ぼろい穴だらけの服とズボン。靴だったものは穴が空きサンダルと化している。そんな僕の姿で判断したのだ。






僕は7歳の時に両親を戦争で亡くし、父方の祖母と二人で暮らしていた。うちの家系は常にまずしく祖母も早々に指輪を売っていたようで指輪をつけていなかったし、両親ともつけていなかったのだ。


僕には指輪を売った両親の気持ちは分からないが、この8年間ずっとこの日を夢見ていた。お金なんて無くて生きて行けていたが、満足はしていない。祖母は僕にも指輪を売るようにと言ってきていたがそんな気はない。誰になんと言われようと、どんな能力でもいい僕は自分の指輪を身につけるのだ。


祖母とともに生きたこの慎ましい生活に終止符を打てるのはこの指輪だけ。この指輪をつけて冒険者という、この世界でメジャーな職業に着き、財を成す。それが僕に残された道なのだと幼い頃に指輪の存在を知った時から誓った事だった。




神官様からいただいた指輪をすぐに左の人差し指へとつける。周りは誰も止めようとはしない、それほどまでに僕とこの指輪には興味がないようだ。


指輪をはめると一瞬指輪から、白い閃光が走ると僕の指に馴染んだようにぴったりとはまった。


指輪をつけていないかのような自然な感覚だ。


「おぉ・・・」


左の人差し指を撫でても、指輪の感触すら感じない。


「ほら下がりなさい。次の者の邪魔になる」


「は、はい」


指輪をくれた神官のおじいさんに促され、後ろに下がる。その時、次の順番待ちの普通の家庭と思われる可愛らしい女性の順番になり、すれ違うと・・・すぐに指輪を買うという声が声高々に周りから上がっていた。まだ指輪すら授けてもらっていないにも関わらずだった。


「・・・別にいいさ、僕の相棒はこいつなのだ」


周りの反応なんて期待していなかったが、こうも落差があると少し堪えるが・・・気にしないように努めるのだった。

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