第三章 第五話

 僕の名前は横塚康介。高校を卒業してから三年間、就職した会社で総務部の一員として業務にあたっていた社会人だ。だが、四年目からはクリエイター支援部という異動することとなった。

 そして、僕が担当になったクリエイターはエキサという動画投稿グループ。そこには中学時代に仲が良かったクラスメイト、大輔もいた。

これから楽しい日々が始まる。僕はそう思っていた。


「よし、次の撮影に向かうよ!」


 大輔はジャケットを身に纏い、三脚やカメラが入ったバッグを肩に背負って部屋を出て行った。それに続くように他のエキサのメンバーも上着を着て、続々と部屋の外に出て行く。

 僕は何もできずに戸惑っていると、リーダーのゆげが僕に近づいてきた。かなり重そうなショルダーバッグを背負い、金色の髪を揺らしている。


「初日から忙しくてごめん。だけど、今日は撮影が詰まっているんだよね」


「そうなんですね。ちなみに今日は動画どれくらい撮るんですか?」


 率直な疑問をぶつけてみた。だが、ゆげは青ざめた顔で僕を見て、人差し指を上に一本出した。

 僕は「動画一本分ですか?」と問いかけると、ゆげが横に首を振った。


「十本」


「そんなにですか!?」


 僕は驚きを隠せずに声に出してしまった。仮に一日八時間働くとしたら、動画一本につき四十八分。かなり切り詰めたスケジュールだ。


「予定を作っているのは大輔だけど、本当にすごいよ。あいつは」


 ゆげはそう言うと、小さなため息を吐いて、部屋の外に出て行った。

 僕はゆげと同じように「すごい」と思ったが、それと同時に「このままじゃまずいのではないか」と思ってしまった。

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