第三章 だいすけ編
第三章 第一話
「来年度からクリエイター支援部に異動ですか」
喫煙所で玉川さんから人事異動の知らせを聞いた時、僕は心臓が飛び出る思いだった。
僕は動画投稿者を支援する会社に勤めている僕は、高校卒業後に三年間、総務部で事務業務に従事していた。だから、いきなり動画投稿者のマネージャーをするクリエイター支援部に異動されるとは思っていなかった。
クリエイター支援部はこの会社の花形だ。地味で地道の総務部にいた僕にとっては、かなり荷が重い。
「ああ」と言うと、玉川さんは電子タバコを口に含み、煙を吐いた。尊敬できない上司から繰り出される煙ほど嫌なものはない。そもそも僕は喫煙者でもないのに、なんで上司の話を喫煙所で聞かなくちゃいけないのだろうか。
「でも、大変だな。総務部からクリエイター支援部に異動だなんて。それにあいつらのマネージャーだろ。相当厄介だぞ」
玉川さんは口角を上げながら言った。きっと玉川さんの口ぶりから、僕が大変な部署に異動になったことを可哀想で、面白がっているのだろう。電子タバコの煙をご機嫌そうに吸い込むと、スティックを電子タバコ本体から抜き取り、灰皿の中に入れた。
「僕が厄介な奴らって誰なんですか?」と尋ねると、玉川さんは黄色に染まった歯を見せつけるように笑った。
「エキサだよ。エキサイティングサーチとかいう動画投稿グループ。うちの会社で契約しているし、若者に人気って言われているからお前だって知っているだろ」
僕は「はい」と答えて頷いた。当然だ。
「知っての通り、とにかく過激な動画を投稿する上に、毎日投稿をしているからな。きっと大変だぞぉ」
声が尻上がりになっている。ここまで僕の異動が嬉しがられているなんて、最後まで本当に嫌な上司だ。それだけ僕のことが気に入らなかったのだろう。
だが、別に僕は大丈夫だ。
このエキサの中に中学生の時のクラスメイトがいる。それに仲も良かった。上司は大変さを僕にプレゼンしてくるが、会社内で見ても、僕からしても花形だ。
「頑張りますので、今年度一杯まではよろしくお願いします。お世話になりました」
僕は深く頭を下げると、喫煙所を出て行った。身に纏っているジャケットを振り払いながら、僕は更衣室に向かい、消臭スプレーを念入りにかけた。
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