第二章 第六話

 正道と別れた後、電車内で席にワイヤレスイヤホンを耳に付けて、将来についてぼんやりと考えていた。通っている大学には入れたから入ったというだけで、何かをやりたかったというわけではない。ただ所属しているだけだ。

 だけど、俺以外はしっかりと将来を考えている。

正道は大学卒業後には公務員。颯太は父さんのラーメン屋を継ぐ。そして、元クラスメイトのゆげも動画配信者という職業にもう就いている。


俺には何もない。


 学生時代にやりたいことを見つけろ、なんて無理に決まっている。一年後までにはやりたい職業の企業にエントリーして、二年後にはその職に就いている。そんな自分の状態を想像できない。

 俺はちらりと電車内にいたスーツを着た四十代くらい男性を見た。この人はやりたい職業に就いて、毎日幸せに過ごしているのだろうか。目の下にクマを作って、ほうれい線がくっきりと強調されており、頭を前後左右に揺らしながら眠気に耐えている。

 あれが幸せなのだろうか。


 幸せとはなんだろうか。そんなことばかりを最近考えてしまっている。

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