第二章 第四話
合同説明会の会場に着くと、俺は安堵のため息を吐いた。
大半の大学生は黒か紺色のスーツで身を包んでいたが、数名だけ私服で来ている人もいた。だから、正道の灰色のスーツの悪目立ちを今回の合同説明会にしっかりと参加する気はないが、悪目立ちをしたいわけではない。何事も起きずに、正道ニ、三か所だけ回って、帰宅できたらそれでいい。
「翔はどこ回るんだ?」
「俺はお前に任せるよ。お前に誘われて、ついてきただけだしな」
「マジかよ。なんか悪いな」
「気にすんな。何となく就活についても把握しておきたいからな」
それにやりたいことなんてないからな、という言葉を俺は飲み込んだ。それを言ってしまったらいけない気がした。
「そうか。なら悪いが、ついてきてくれ」
正道はそう言うと、迷いのない足取りで会場内を歩き始めた。正道は既にやりたいことが決まっているんだろう。
対して、俺は何も決まっていない。やりたいことなんてない。ただ、父さんのラーメン屋を継ぐことだけは避けたい。たとえ父さんが颯太に継がせるつもりであっても、俺が継ぐ可能性がほんの少しでもあるなら、どんな手を使ってでも避けたい。
そんなことを考えながら、正道のあとを追っていた。
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