第二章 第三話
企業の合同説明会が行われる会場の最寄り駅に着いた。ポケットからスマホを取り出し、メッセージアプリで友人の山中正道に「着いた」と送り、目の前の光景を見た。
黒や紺のスーツを着た大勢の人たちが会場の方向へと歩いている。ここの駅はそこまで大きなものではなく、近くには商業施設か合同説明会の会場にもなっているホールだけだ。だから、このスーツを着た人たちの大半は合同説明会目的の大学生だろう。一つか二つほど上の人もいるだろうけど、俺と同じで大学二年生の人もいるのだろう。
まるで何かの儀式のようだな、と思っていると、待ち合わせをしている友人が俺の元に堂々とした足取りで近寄ってきた。胸を張り、肩で風を切り、大股で歩く姿はあるお笑い芸人を想像させた。
「よう。待たせたな」
「俺も数分前に着いたばかりだから、待ってねーよ」
「お、モテ男発言!」と正道がからかってきたが、俺は完全に無視をした。そして、改めて正道の姿を確認した。上下ともに灰色のスーツを身に纏い、中には水色のストライプのワイシャツを着ており、首には赤色のネクタイを巻いている。
「スーツの色、グレーって大丈夫かよ」
「大丈夫だろ。そもそも今回の合同説明会って、服装自由だろ?なんでそんなちゃんとスーツを着ているんだよ」
正道は俺の服装を指さした。紺色のスーツを身に纏い、中は白いワイシャツを着ている。ネクタイは青色のストライプだ。
どこからどう見ても普通の就活をしている大学生だ。
「念のためだ、念のため」と俺は言って、正道の背中を叩いた。お前みたいなやつが珍しいだけなんだよ。
俺と正道は周りの大学生に紛れつつ、会場に向かった。
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