第一章 第十話
「これをこんな感じで馴染ませて~」
沙希は美由の顔をじっくりと眺めながら、フェイスパウダーをたっぷりと付けたパフを頬に押し当てている。他人にメイクをしてもらうという経験をあまりされてこなかった美由は、自分の顔の状態がわからないため、少しもどかしさを感じていた。
―――美由を魔改造できるって聞いて楽しみにしていたんだから。
沙希は昼頃にそんなことを言っていた。沙希のことを信じているけど、真剣な時にふざける傾向にある。その上、メイクを始めてから一度も鏡を見せてもらえておらず、美由は口角が上がっている沙希の顔しか見ていない。
だから、疑うなという方が難しいのだ。
美由は身に纏っている白色のニットの袖と無地の茶色のスカートに浮き上がっている自分の太腿を眺めながら、そのもどかしさと戦っていた。
「よし、完了!!」
じっと美由の肌を眺めながら、沙希は言った。手に持っていたパフをケースに収めた。そして、沙希が美由の眼前に出しだされた丸い手鏡に、肌が桃色に染められている自分の顔が映し出された。
「す、すご」
美由は自分の顔を見て、それしか言えなかった。鏡に映っている人物が自分ではないと思ったからだ。まるで画面の向こう側の人間のようだった。
しかし、メイクで目が二倍に大きくなったとか、肌が透き通ったとか、フェイスラインが綺麗になったとか、劇的な変化があったわけではない。リップやフェイスパウダーなどといったコスメが、互いに良さを引き出し合っている。
だから、画面の向こう側の人間に見える奇跡を生み出したのだ。
「語彙力」と沙希は笑った後、出していたコスメを全てケースに収めながら、改めて美由の顔面を見た。
「美由の素材がいいからだよ。私だとこうはいかないし」
「そんなことはないでしょ」、と美由が言うと、沙希は「いやいや、ほんとほんと」と笑った。
「でも、喜んでもらえたなら良かった」
沙希はパチンとケースを閉じる音と共に呟いた。そして、コスメが一通り入った紙袋を美由に差し出してきた。
「メイクの詳しいやり方はメッセージで送っておくから、同窓会頑張ってね」
「うん。頑張る」
美由は紙袋を受け取って、深く頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます