第一章 第九話

「こういうのが良いと思うんだよね。やっぱり美由って乾燥肌っぽいし」


 沙希はコスメショップの中で、様々なものが並んでいるフェイスパウダーの試用品を美由の手の甲で確かめている。一目見ただけじゃわからないが、じっくりと見ると違いがわかってくる。

コスメショップに入ってから、美由は沙希のおもちゃのようになっている。だが、美由もコスメについて詳しいほうだ。しゅんという存在に出会った高校三年の頃から自分の容姿に気を遣い始め、コスメについても調べている。


だが、それを遥かに上回るくらいに沙希が詳しすぎるだけなのだ。


(詳しいのは知っていたけど、流石……沙希ちゃん)


 結局、美由は沙希に勧められたフェイスパウダーとリップを買い、コスメショップを出た。もう空は太陽が沈み始めている。美由の頭の片隅で、日が短くなったなぁ、と思っていると、前を歩いていた沙希が突然後ろを向いて、「じゃあ」と笑みを浮かべた。


「ここからは私の家でメイク講座だね」


 沙希の言葉に美由はごくりと息を飲んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る