第一章 第十一話
美由は電車の中で、鮮やかに彩られた自分の顔を折り畳める小さな鏡で見ていた。やはりこれが自分だとは思えない。でも、これならしゅんの隣にいてもおかしくないかもしれない。そう思った。
ぶぶ、とスマホが小さく震えた。確認してみると、沙希から今回のメイクの仕方についてがメッセージで届いていた。これをあと一週間程度で自分のものにしなければならない。
だけど、どこか安堵していた。これでしゅんの視界の中に納まっていいのだろうと、そう思ったからだ。
電車内でもうすぐ次の駅に到着するというアナウンスが流れた。まだ家の最寄り駅まで十数分かかることを確認した美由は、静かに瞼を閉じた。
*****
最初はただのクラスメイトだった。
原田美由にとって、しゅんはそういう存在だった。美由よりも身長も低いし、イケメンでもない。運動神経だって良くないし、クラスで目立つ存在でもなかった。
だけど、高校三年生の文化祭。降り注いでくるスポットライトを浴びながら、魂を燃やすような歌声に心を奪われてしまった。
「かっこいい……」
しゅんが文化祭のステージの上で、肩に下げたギターをかき鳴らしながら、叫んでいるような声で歌っている姿を見ながら、美由はひとり呟いていた。
誰にも聞こえないその声は、透明だったしゅんへの好意に色を付けた。秘めている恋を覆い隠すようにするため、ぎゅうと両腕で胸を抑え込んだ。
いつも教室で顔を見ていたはずなのに、初めて見たような気がした。脳がじんわりと溶けるような感覚に襲われ、これが一目惚れなのだと美由は思った。
(私はこの人のことが好きだ)
この文化祭の日から美由は彼を目で追うようになっていた。
教室の真ん中で他の男子生徒と騒いでいる時。
体育で周りについて行けるように全力で授業に取り組んでいる時。
大学受験に向けて懸命に勉学に取り組んでいる時。
ふとした瞬間に彼を見るようになっていた。だが、目で追うだけしかできなかった。何故なら彼はあの文化祭の日から周りには誰かがいた。
クラスの中心的なメンバーが。美由と同じように文化祭から好きになった女子生徒が。趣味が音楽の他クラスの生徒が。ファンになった後輩の生徒たちが。
いつも誰かがいた。
その上、美由は大学受験の勉強に取り組んでいるしゅんの姿を見ていたため、あまり関係が構築できず、そのまま高校を卒業してしまった。卒業式の日に二人が映っている写真が得られたことだけが唯一の救いだった。
それぞれの道へと進んでいった後、美由はもう関われないと思っていた。だが、美由は見つけてしまった。
動画アプリで大学の友人と四人で活動しているしゅんの姿を。
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