第一章 第十五話
「あれ?姉ちゃん、今日は高校の同窓会で遅くなるんじゃなかったっけ?」
美由が家に着いた時、妹の麻衣に声をかけられた。今日は両親とも仕事で遅くなるため、麻衣はリビングの大きなテーブルで過去問とノートを広げていた。いつも勉強をしている自分の部屋の机だと少し狭いのだろう。
「行かなかった。しゅんくんが来なかったから」
美由は麻衣に目線を向けることなく、キッチンの冷蔵庫から水を取り出し、自分のコップに注いだ。トクトクとコップを満たしていく音が止まった時、麻衣は椅子から立ち上がっていた。
「えっ、どういうこと?」
「そのままの意味。好きな人が来ない同窓会なんて行く意味ないじゃん」
「ドタキャンってこと?」
「そうだよ。別にキャンセル料は払うつもりでいるし。そもそも卒業して一年未満で同窓会って何?って感じだし」
美由は怒りに任せて、水を喉に流し込んだ。今日の同窓会を楽しみにここ数日過ごしていただけに、しゅんが来なかったことに対してやり場のない怒りが込み上げてきたのだ。
悪いのはしゅんでもないし、同窓会の幹事でもないし、もちろん美由のせいでもない。誰のせいでもないのだ。だからこそ、虫の居所が悪い。
だから、全く関係のない麻衣にも八つ当たりをしてしまいそうなので、美由は急いでコップを洗い、食器乾燥機に置いて、リビングを後にした。
だが、リビングを出た後に、麻衣が呟いた言葉が美由の耳に届いてしまった。
「めちゃくちゃな理由でドタキャンなんて最低」
最低。
それは美由もわかっている。
(だけど、行きたい理由が当日に無くなったのに、どうすれば良かったんだよ)
この心境を麻衣に全て吐き捨てても意味がない。むしろ大学受験の邪魔をしてしまう。どうしようもない思いを抱えたまま、ベッドの上に体を放り投げた。
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