第一章 第四話

美由が火曜日二限に履修している講義は百名以上で行うため、開始十五分前に着いたとしても何人か既に講義室にいた。あたりを見渡して、友人がまだ来ていないことを確認した後、美由は窓際の席を確保した。


 聞こえてくる誰かの騒がしい雑談をかき消すために動画アプリを開いて、エキサの過去動画を観始めた。今回、再生した動画は大食い企画で、メンバー全員が苦しみながらも料理を口に運んでいる。


(頑張れ、しゅんくん)


 三回以上見返した動画ではあったが、美由はスマホ画面にかじりつくように観ていた。背中をとんとんと叩かれるまで、大学の友人が近づいてきていることにも気が付かないほどに集中してしまっていた。


「あ、おはよ。沙希ちゃん」


「おはよ。めっちゃ集中していたじゃん」


 美由の大学の友人、早瀬沙希は乾いた笑いを浮かべながら、隣の席に座った。そして、美由がワイヤレスイヤホンを外している間に、沙希はトートバッグをテーブルの上に置き、「何観ていたの?」と問いかけた。


「エキサの動画だよ。昔の動画だけど」


「また観ていたんだー。やっぱり面白い?」


「超・超・超・超面白い!」


 美由が顔を少しずつ近づけながら言うと、反対に沙希は顔を仰け反らしながら「圧が強い」と表情を強張らせながら呟いた。

 言い切った後、自分がしていることが押し付けだと気が付いた美由は、上体を元に戻しながら、顔の前で両手を合わせた。


「あ、ごめん。沙希ちゃんにエキサの動画見てほしくて、つい」


「でも、そんな勧めてくるなら、今度観てみるよ」


 そんな沙希の言葉に美由は目を輝かせた。顔の前で合わせていた手を開いて、両手の指を組んだ。


「ほんと!!めっちゃ嬉しい」


「うん。今度、絶対観るよ」


「絶対、絶対だからね!」


 美由は満面の笑みを浮かべた。

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