第一章 第三話
美由は電車のドアに背中を預けながら、変わり続ける窓の外の景色を眺めていた。十時を回っている時間の電車内はまばらに人が座っているだけで、比較的空いている。
体の前で抱えたリュックを両腕で抑え込みながら、小さく息を吐いた。
(この時間帯の電車は安心する。朝に比べればだいぶマシだ)
と、美由はぼんやりと毎週火曜日の朝に必ず巻き込まれる通勤ラッシュ時のことを思い出しながら思った。
腐った肉をたばこで燻製させたような臭いを放つ人たちや、無理やり乗り込んでくる人たちに押しつぶされ、大学に着く頃には精神と体力がごっそりと削られてしまっている。
だけど、今はその心配はない。
電車に揺られること四十分。ようやく大学の最寄り駅に到着し、美由は電車を出ると、近くにあるエレベーターで上に行き、急いで改札を出た。
最寄り駅から大学までは徒歩五分ほどで着くため、エキサがリリースしている曲を聴きながら向かうのが美由のルーティンだ。
美由は耳に付けておいたワイヤレスイヤホンにエキサが二番目にリリースした音楽を流した。
曲のタイトルは『よん』。エキサにしては珍しく、おふざけなしで作った曲であり、これからもエキサの四人、誰も欠けることなくこれからも頑張っていこうという曲である。
そして、最後のサビの前にゆげ、だいすけ、けい、しゅんの順番でソロで歌うところがあり、しゅんが歌うパートの歌詞が大好きなのだ
(やっぱりこれを聴くと、元気出るなぁ)
アウトロの最後の一音まで聞ききった美由は、大学の校門前にいる警備員に軽く会釈をして、敷地内へと入った。
(私たちの平和を守ってくれているわけだし、苦手でも挨拶くらいはしておかないとだよね。私、偉い!)
美由はいつもよりも軽い脚取りで、講義室に向かった。
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