第12話配球とかリードって奥が深いな…

「エースの制球練習に付き合ったか。どうだった?感想が聞きたい」



お兄さんは休憩時間に俺の世間話に真剣に耳を傾けてくれる。

俺は俺で感じた感想を口にしていくのだが…



「正直お兄さんと比べたら…」



そこまで口にしてみせるのだが。

お兄さんは首を左右に振って否定のような言葉を口にした。



「いいや。俺と比べるのは間違っているだろう。

しかし…他に比較対象が無いのか…困ったものだな。

仕方ない…続けてくれ」



お兄さんは仕方なさそうに頷くと。

どうにか納得してくれたようで。

そこから俺は感じたことを話していく。



「やっぱり球速もですし…何より変化球が無いですから。

普通に捕球できましたよ」



「なるほどな。では少し配球やリードに関しての話をしていこうか」



お兄さんはそう言うと庭に落ちていた枝を手にしていた。

そのまま庭の地面に線を引いていき絵を描いてくれていた。

それはストライクゾーンを簡易的に九分割した図の様な絵だった。



「コースの投げ分けをする制球練習だったみたいだが。

剣はどの様に配球していたんだ?」



お兄さんの問に俺は土曜日のことを思い出して正確に配球内容を口にしていた。



「なるほどな。得意と不得意を交互に投げさせたのか。

それがもしも打者がいた場合はどうしていた?

考えを聞かせてくれ」



「はい。それは打者の苦手なコースを攻め続けます。

何度もその戦法を擦り続けると思います」



俺の答えにお兄さんはウンウンと何度も頷く。

しかしながら口から出てくる返答は俺の思考を否定するものだった。



「何度も苦手なコースを攻め続けるのは概ね有効的な戦略だろう。


でも次の一歩を踏み出して欲しい。

もしも苦手なコースしか攻めなかったとして。

バッテリーの考えにそれしか戦法がないと考えてみろ。


自分が打者として打席に立っていたら。

どうにか工夫して苦手コースを打とうと努力するだろ?

どの打者も苦手なコースは打てないと諦めて泣き寝入りするわけ無いよな?


苦手コースしか攻めてこないと分かれば。

投手が投げる前から打者はコースを完全に把握して理解できるわけだ。


それは幾ら打者にとって苦手なコースと言えど…

そこしか攻めないのであれば…

少しだったとしても打たれる可能性があると思わないか?

不安要素は限りなくゼロにしておくべきだろ?


だからこそ…その先の一歩が必要だと俺は考えるわけだ。

それがなんだか分かるか?」



「えっと…何でしょう…外した釣り球を効果的に投げるとかでしょうか?」



「もちろんそれも有効的な戦法だ。

けれど好打者や選球眼のいい打者には必ずしも通用するとは限らないよな?


そういう打者を相手にした場合。

どの様な配球やリードに切り替える?


その答えを幾つでも持っている捕手は頼りになると思わないか?

打者として相手する時も手強い相手だと思わないか?」



「はい。もちろん思いますけど…他にどの様な攻め方があるでしょうか?」



「なるほど。対戦する機会が少ないと言う経験値不足が表に出ているな。


俺から伝えるのは一つの答えとして受け取ってほしい。

捕手の経験は無いが投手として捕手の思考を幾らか感じ取っていた。

俺の経験談を聞いておくと良い。


あまりにも引っ張ってしまって申し訳ないが。

苦手なコースを攻め続けて幾つもの打者を抑えていくよな。


そうなると打者だって頭を使ってくる。

さっきも言ったように苦手なコースを打とうと意識を切り替えて工夫してくる。


だからこそだ。

捕手として打者の変化に気づいたら。

その打者の得意だと思われるコースを攻めてみろ。


それは一球だけの限られた瞬間だけかもしれない。

だけどな苦手なコースしか投げられないと高を括っていた打者には効果的なんだ。


急に逆をつかれて得意コースに放られるんだぜ?

幾ら好打者でも張っていた苦手コースとは正反対な得意コースを投げられたら。

中々打てるものじゃない。


そして打者は得意コースを打てなかったことを後悔していく。

そこから徐々に毒のように心や全身を蝕んでいくことだろう。


そんなたかが一球で大げさだと笑うものもいるだろう。


でもな…好打者ほど得意コースを逃したと分かれば。

それはそれはショックってものだ。


そこからはバッテリーに対しても自分の打者能力に関しても懐疑的になるだろう。

バッテリーに苦手意識を抱いた打者は面白いほどに抑えることが出来る展開になりやすいんだ。


だけどこれにも弱点というか欠点はある。


激昂すると能力が跳ね上がる打者や普段から冷静な打者。

または来た球を弾き返すだけと割り切っている打者には効かない。


そこを判断するのも捕手の努めだろ?

俺は捕手の思考も配球もリードも完璧に詳しい訳では無い。


だから…少しずつでいい。

自分自身の経験で配球能力とリードを学んでいってくれ。


そうすれば実力の高い捕手になれるさ」



お兄さんの言葉に頷いた俺は休憩を終えるように立ち上がった。

そのままお兄さんはグラブとボールを手にしていて。



「今日の捕球練習では…

あらゆる状況を想定した練習にしよう。


アウトカウントは。

打者はどちらの打席に入っているか。

ランナーの状況は。

点差は。

都度状況は俺が伝える。


剣は守備位置の指示をまずはしてみろ。


その後は俺に何処に放ってほしいか要求を口にして伝えてくれ。

俺はそのサイン通りに投球するから。


それらにどの様な意図があったのか。

一球ごとに尋ねる。


それが正しいか間違っているか。

その都度伝える。


俺の考えでしか無いんだが。

参考にしてくれると助かるよ。


じゃあやろうぜ」



休憩を終えた俺達はその後…

日が暮れるまで投球捕球練習に…

捕手としての配球能力向上にリード力向上に努めるのであった。






今回は概ね会話ベースでした。


けれど捕手や投手にとっての大事な話だったように思います。


剣はいつ…信頼できる投手に出会えるのか。

自分を求めてくれる投手に出会えるのだろうか…


それはもう少し先の話なのであった。




次回へ…!

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