第10話酷く短い日常の一幕

「お兄さん。最近よくそのお菓子食べていますね。お好きなんですか?」



平日練習が今日も行われていて。

休憩時間のお供にリスナーから頂いたお菓子を食べていた。



「ん?あぁ。好きだよ。以前好物の話になってな。

その時にほんの一瞬だけ話したお菓子なんだけどな。

覚えていてくれる有り難い人がいてさ。

定期的に贈ってくれるんだよ。


本当に凄い世界だよな。

有り難くて嬉しくて仕方ないが。


でも結構な頻度で贈ってくれるからさ。

毎日こうやって食べないと悪くしちゃうかもしれないだろ?

折角の頂き物を腐らせるわけにはいかない。


ちゃんと全部食べたいんだ。

それで改めてお礼を言いたいんだよな。


でも多いから…剣も食べるか?」



俺の問に剣は当然のように首を左右に振る。



「それはお兄さんがリスナーさんから頂いたものですから。

それとお菓子やジュースは極力避けているんですよ。


食事の栄養吸収の妨げになると聞いたので。

それでも甘いものを食べたい時はフルーツを頂いているんですよ。

身体を大きくしたいので。


お菓子を食べたいって気持ちはあるんですけど。

俺だって以前は沢山食べていて。

大好きでしたから。


でも野球を完全に辞めたら。

今までの分を取り戻すように目一杯満足いくまで頂くつもりです」



剣の答えを耳にして。

俺は苦笑の様な表情を浮かべて。



「やっぱり子供らしくねぇやつだ。どんな精神していたら…

その歳で自分をそこまで律することが出来るんだか…

本当に末恐ろしいよ」



剣は俺の言葉に苦笑のような呆れるような複雑な笑みを浮かべて。


そこから俺達は休憩時間を終えると。

平日特訓の続きを行うのであった。





そこから数日が経過して。

土曜日はチーム練習を行って。

日曜日はレギュラーチームの公式戦を見学して過ごす。



またしてもあっという間に月曜日がやってきていた。

当たり前のように学校に行き。

殆ど独りで過ごす俺だった。


下校時刻を迎えた頃に雨が降ってきて。

傘を持ってきていないことを思い出していた。



「結構降ってるな…」



下駄箱で靴を履き替えた俺は雨の降る景色を眺めていて。

それを横目に殆どの生徒たちは傘を指して帰宅していく。


または俺と同じ様に傘を忘れた生徒たちが下駄箱で外の景色を眺めていて。

けれど同じ様に立ち止まっていた生徒のもとにも友人がやってきて。

傘に入れてくれるようで。


徐々に下駄箱で外を眺めている生徒は一人また一人と居なくなっていく。

中には親が車で迎えに来てくれたようで。

親と一緒に校舎を抜けていく生徒も居た。



「今日の練習は休み…」



そんな言葉が漏れた所で。



「おい。剣。早く来い!」



物陰に隠れる訳では無いが。

周りに正体がバレないように不審な格好をしたお兄さんが居て。

俺は思わず笑みを浮かべて外に出ていた。



「早く傘の中に入れ。裏に車が停まっている。走るぞ!」



そうして俺はお兄さんと共に傘の中に入りながら。

裏に停まっている車に急いだ。


少しだけ濡れてしまったが。

どうにか車に乗り込むとお兄さんは下手くそな笑みを浮かべる。



「変なスリルがあったわ…もう御免だぜ。

何となく嫌な予感がして来てみて良かった。


今日はどうするよ?

雨だし…このまま家に帰るか」



お兄さんの言葉を耳にした俺は。

母親の言葉を思い出していた。



「じゃあ今日は家に来てくださいよ」



俺の言葉にお兄さんは明らかに苦笑のような呆れたような表情を浮かべて。



「マジで言ってる?」



それに大きく頷くと。

お兄さんは観念した表情で車を発進させるのであった。





本日は酷く短い話になるのだが。


次回は逆井葉が須山家にて食事をする話。


葉と須山両親が親睦を深めた。

そんな話を予定していて。


少しずつ着実に須山剣の物語も構築されて進んでいくのであった。




では…本当に短かくて申し訳ありませんが…



次回へ…!

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