第3話 見せかけの事実

 佐藤知事の方針は、綿世の希望を座礁させてしまった。怨むは佐藤知事。綿世は既得権を行使している県民職員OB・琴吹忠に今の状況を訴えた。琴吹忠は猪俣の構築した利権路線を歩み、悠々自適の天下り生活を大手建設会社で謳歌していた。


綿世「あの知事が猪俣さんが牽いてくれたご褒美を砕こうとしているんですよ」

琴吹「飽きまへんなぁ、五月蠅いハエは追い払わなあかんな」

綿世「誰か相談できる人はおりまへんか」


 琴吹は「う~ん…」と考えたのち、「おるで」とある人物の名を挙げた。


綿世「誰ですか」

琴吹「県議選で世話してやった武中や」


 琴吹はすぐさま武中議員に連絡を取り、綿世との接点を作った。


武中「話は琴吹さんから聞いてます。何か知事を失脚させられるネタはありますか」

綿世「具体的にはありませんが噂話なら搔き集めています」

武中「見せてくれるか」

綿世「明日にもプリントアウトしてお渡しします」


 武中は、綿世からプリントアウトされた噂話に目を通した。これでは、佐藤知事を落とし込めないと感じた武中は、小さな出来事を想像と捏造を詰め込み、生地を膨張させるための炭酸ガスやアルコールを生み出すイーストのように使った。噂話が事実のように見せかけるため、噂話を証言として書き換え、証言者を誰か分からないが県職員OBから聞いたと設定した。この設定が如何に可笑しいか、気づけない。この文章の信憑性がかなり低いことを明かしているようなものだ。それでもお構いなしに怪文書を書き換え、作文した。


武中「綿世さんの文章では弱いから書き換えました」


 そう言われて、綿世は作文された文章を読んだ。噂話に恨み節を振りかけた自分が記載した文章は、明らかに佐藤知事が如何にも悪者であることを物語るものになっていた。事実を捏造により装飾・追加され、佐藤知事が一部を認めざるを得ない状態を作り、認めれば「あっただろう」と詰め寄ることができるように仕上げていた。


綿世「これをどうすれば拡散できるんですか」

武中「マスコミと警察に送ればいい。マスコミにはコネがあるから取り上げるように

   言っておく。警察にもな。贈収賄で調べてくれれば儲けものだからな」

綿世「警察にもですか」

武中「上は繋がっているし、警察にも報告すれば信憑性が増すだろう」

綿世「確かに」

武中「職員を味方につけるためビラも組合とか使って配ればいい」

綿世「職員給与引き下げとか理由にすれば動くでしょう」

武中「やり方は任せるが、私の存在は明かさないでくださいよ。議会などで騒ぐのに

   妨げになるのでね。飽くまで私は告発を支援する正義の第三者ですから」

綿世「分かりました。今回の告発は私の一存ってことで処理してください」

















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