三
※
全身で小夢の熱を感じる。体と体が触れ合いお互いとお互いを確かめ合っている間、陽介はこれ以上ないくらい安心を覚える。
聞こえてくる吐息や声は相手のものであるはずだが、自らも似たようなことをしているからか、時折、どちらのものかわからなくなった。肌と汗の感触と相手がいるという安堵。それだけで嬉しくなりつつ、今にも弾けそうで弾けないもどかしさの渦中にある。
愛してる。息を切らし発した言葉に答えはなく、ただ背中に回っている腕の力がこころなしか籠もった。
愛してる。思い出したように呟きつつ、どことなく静かに果てた。
/
「子供、つくろ」
陽介の親が家を空けているのをいいことに実家で成された行為の後、小夢はブランケットに包まりながら静かにそう口にした。陽介は、またか、と思いつつ笑みを形作る。
「何度も言ってるだろう。働き出して、安定した生活を送れるようになってからにしようって」
お互いの親に大迷惑をかけるという前提であれば、不可能ではないかもしれない。ただ、さすがにそこまでする気にはなれない。
小夢はほのかに赤くなった頬を膨らます。
「けち」
「けちでけっこう。まわり道でも確実に幸せになりたいんだよ。それに急ぐ必要なんてないだろう」
ついこの前も、おじさんに節度を持った付き合いをしろって言われたばっかりだろう。付け加えつつも、つい先程まで行っていたことは、節度を持ったものと言えるだろうかと疑問に思わなくもない。とはいえ、避妊もしているし、健全な付き合いの範疇だろう。
小夢は顔を反らしたあと、ベッド脇に置いてあったミネラルウォーターに口をつける。間近で鳴る飲み音を耳にしつつ、臍を曲げてしまったかな、と思っていると、
「ひつよう、あるよ」
静かな声音が室内に響く。
「ヨウ君だって、いついなくなるかわからないから」
だからそうなる前に、たくさん家族を作るの。そんな風に漏らされた言葉に、いなくならないよ、とすぐさま断言しようとして直前で躊躇う。
絶対いなくならないなんて、言い切れるのか?
もちろん、陽介自身はずっと小夢といたいと思っている。しかし、その思いは今は亡き小夢の母親も同じだったのではないだろうか。予期せぬ事故の可能性を捨てきれないかぎり、万が一起こらないとどうして断言できるのか?
だが、それでも――
小夢の肩に手を置き、振り向かせる。感情に乏しい顔をしつつもどことなく納得していない面持ち。そんな少女に、
「約束するよ」
できうるかぎりの真剣さを込めて告げる。
「絶対にいなくならないから」
無責任だという内面の声を押し殺しながら、不安に揺れる恋人を安心させたい。ただただ、そんな願いとともに小夢を見据える。
当の小夢はそれをどう受けとったのか。
「うん」
一つ頷いてから、陽介の胸板に頭を預ける。
量の多い髪の毛の感触と重みをおぼえつつ、恋人を抱きしめた。いまだに割り切れない表情をする少女に対して、新たな家族ができる日まで待っていて欲しいと心から思う。
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