一
「野々宮ぁ、お迎えだぞ」
帰りのホームルームが終ってすぐ悪友の
「彼女のお迎えとは、羨ましいことで」
茶髪を撫ぜながら茶化すように口にする元丘に、そうだろう、と軽く応じる。途端に友人は唇を尖らせる。
「からかい甲斐がないんだよな、お前は。少しも恥ずかしがらんから」
最愛の女の子が迎えに来てくれるのに、なにを恥ずかしがる必要があるのか。そう不思議に思う陽介に悪友は、はいはいごちそうさん、と呆れ気味に告げながら手をひらひらさせる。陽介も、また明日な、と別れを告げてから、廊下から顔を出す小夢の元へ小走りで向かう。色素の薄い髪に色白の肌をした少女は、教室後ろの扉に寄りかかったまま、じっと陽介の方を見ていた。
「待ったか」
無表情のまま首を横に振る小夢に、そっか、と応じてから歩きだす。リノリウムの廊下を擦る上履きの規則的な足音を耳にしながら、今日も一日の終わりが近付いたと実感する。そんな実感をより強めるのが、昼休みぶりに顔を合わせる小夢の存在だった。
黙ったまま顔色一つ変えない小夢はそれでいてぴったりと陽介のそばを離れようとしない。学年が一つ違うのもあって四六時中一緒にいられるわけではなかったが、陽介は可能なかぎりともにいようと思っていたし、それは向こうにしても同じだろう。でなければ、毎日のように早くホームルームが終った方が迎えに行くような習慣はできない。
「今日はどうする?」
下駄箱で一旦別れ別れになる直前、小夢に尋ねる。この質問の答えは、だいたい二通りに別れる。一つは、陽介の家。もう一つは、
「ん」
自らの顔を指さした少女。今日は俺がお呼ばれする番かと理解し、そっか、と応じた陽介のそばを、小走りで自らの下駄箱に向かっていく小夢。そこに名残惜しさをおぼえつつも、すぐに一緒になれるんだから、と自分自身を落ち着かせた。
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