いつでも微笑みを

ムラサキハルカ

プロローグ

 祭壇に飾られた笑顔の女性の写真。父親に手を握られながらその一葉を見つめている冴木小夢さえきこゆめに表情は無い。まるでどこかしらに穴が空いてしまったみたいな女の子の横顔を、野々宮陽介ののみやようすけはどこか虚ろな気持ちで眺めている。


 ついこの前まで小夢は元気いっぱいに笑顔が浮かべていて、隣の家に住む陽介はその太陽みたいな女の子のことを愛おしんだ。その輝きが、たった一つの事故によって奪われた。


 今や写真の中の住人となった母親を、小夢はいったいどんな気持ちで見ているんだろうか。それを思うとやりきれない気持ちでいっぱいになる。


「私が、そばにいるからな」


 小夢の父親から発せられた重々しい声。それを聞いて、陽介はハッとし、女の子の手を強く握りこんだ。


「ぼくも……いっしょだから」


 ゆっくりふり向いた小夢には、相も変わらず表情はない。ただ、しっかりと陽介のことを見てくれているらしいのはわかった。

 

 ずっと、一緒にいよう。そう、強く強く誓いを立てた。

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