第10話:売り言葉に買い言葉。
「
「え?会社辞めちゃうの?」
「うん、もう辞表出してきた」
「デザイナーとして本格的にやってみようかと思って・・・」
「なんで?今の会社嫌なの?」
「そうじゃなくて・・・自分を試してみたいんだよ」
「それに誰かさんを昼間ひとりにしときたくなくて・・・」
「まあ、どっちかつうとそっちがメインかな?」
「私のために会社辞めるの?」
「うん・・・」
「私のため・・って、それダメだよ」
「え?なんで?いいじゃん、もう決めたし」
「なんでそんな大事なこと前もって相談してくれないの?」
「そんなこと俺の自由・・・勝手だろ?」
「そうだよ圭ちゃん勝手だよ・・・だいたいいつもそうよね」
「んもう、めんどくさ」
「なに?」
「俺の彼女でもないくせに・・・俺の嫁さんでもないくせに口出ししない
でくれよ」
「え?・・・なに言ってるの?・・・それおかしくない?」
「私、圭ちゃんの彼女じゃないの?・・・じゃ〜聞くけど私はなに?」
「こっちこそ聞くけど、いつから?どこから俺の彼女になったんだよ」
「今日たった今彼女になりましたって言ったか?」
「俺たち恋人ですっていつ宣言した?」
「ひどい・・・」
「私は圭ちゃんのこと彼氏だと思ってたし恋人だと思ってたのに・・・ 」
「って言うか、俺たち一緒に住んでるだけじゃん」
「住んでるだけって・・・私を愛してくれてないの?」
「・・・・・・・」
「そもそも葉見が俺のマンションに無理やりやってきてラブドールの中に入った
んだろ?・・・押しかけてきたんだろ?」
「そうだけど・・・だって圭ちゃん喜んでくれたじゃん」
「・・・・・ 」
「そうなんだ・・・私のこともうなんとも思ってないの?」
「もう私は必要ないの?」
「・・・」
「必要ないんだ・・・」
「・・・・・」
「分かった・・・もう自分の彼のこといくら心配したって意味ないんだね」
「私出てく・・・今日までありがとう・・・」
「え?・・・待てよ出てくってどこへ行くんだよ、行くとこなんてないだろ?」
「この子から出て、あの世に行くからいいよ」
「圭ちゃんに嫌われたまま、ここにいいても意味ないから」
「来世で生まれ変わって圭ちゃんとは違うタイプに彼氏みつける」
「必要なモノも持ってくモノもないから、このまま行くから 」
「じゃ〜ね、元気でね・・・さよなら」
「・・・・」
それでもバカな俺は意地を張った、妥協しなかった。
葉見を止めなかった・・・さよならさえ言わずに・・・。
本当にバカだよ・・・素直に謝ればよかったのに・・・。
彼女は行ってしまった。
葉見を傷つけて悲しませたせいで俺は彼女を失った。
その夜、葉見の魂が抜けたラブドールがソファに無機質に横たわっていた。
こんな惨めな夜、眠れるわけない・・。
俺は動かなくなったラブドールの横で毛布を被って一睡もしなかった。
ものすごく落ち込んだ・・・後悔したってもう遅いんだ。
葉見は二度と俺の元には戻って来ない。
葉見と過ごした日々が走馬灯のように蘇る。
楽しいことしか思い出せない・・・そう思うと涙があふれ出た。
泣いても泣いても涙が止まらない。
泣くくらい辛いなら、なんで葉見に優しい言葉をかけてやらなかったんだ。
またひとり孤独な毎日を面白くもなく過ごすのか?
人は誰でも人生においてひとつやふたつ過ちを犯すのかもしれないけど
それでも頑張れば取り返せる過ちもある。
だけどいくら思っても頑張っても取り返せない過ちもあるんだ・・・。
俺と葉見のこれからの楽しいはずだった暮らしはバカな意地を張った俺の
せいであっけなく終わった。
おしまい・・・じゃなくて・・・づづくから・・・
まだエッチしてないんだから。
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