女の子とのお出かけはデートに含まれますか? ――3

 映画館は多くのひとで賑わっていた。受付カウンターにも長蛇の列ができている。


 その賑わい様に、彩芽が目を丸くする。


「お客さんがたくさんいますね!」

「そ、そうだね。休日だからかな?」


 相槌を打つ俺は声を上擦らせていた。自分は彩芽とデートしているのではないか? と考えてしまってから、緊張しきりなのだ。


 一方の彩芽の様子はいつもと変わりない。緊張とは無縁の自然体だ。どうやら、意識しているのは俺だけらしい。


 デートかもしれないって思ってるのは俺だけか。勘違い男みたいでメチャクチャ恥ずかしいよ。それに、なんだかモヤモヤするな……。


 謎の不快感に顔をしかめた俺は、気持ちを切り替えるべく頭を振る。


 いや、変なことを考えるのはやめよう。せっかく映画を観にきたんだから、楽しまないと損だよ。


 胸中きょうちゅうのモヤモヤを誤魔化して、彩芽の手を引く。


「とりあえず、並ぼうか」

「はい。そうしましょう」


 応じた彩芽とともに、カウンターの列に並ぶ。とても長い列なので、俺たちの番が来るまでには時間がかかるだろう。


 一緒に来たからには並んで観たいけど、俺たちの番まで席は残っているかな?


 そんな懸念が浮かんできて、俺は眉間に皺を寄せる。


「隣同士になれたら一番いいんだけど……できるかな?」

「大丈夫です、哲くん」


 不安がる俺に微笑みかけて、彩芽がバッグからチケットを取り出した。


「このチケット、席が指定されているみたいなんです。なので、心配しなくても隣同士になれますよ」

「あ、本当だ」


 よく見ると、たしかにチケットは席を指定したもので、俺と彩芽のチケットは連番になっていた。これならば、問題なく一緒に観られる。


 安堵の息をついて、俺たちの席がどの位置になるかを確認するべく、映画館の公式サイトをスマホで開く。


 座席表とチケットの番号を照らし合わせて――俺は言葉を失った。


 お、俺たちの席、カップルシートなんですけど!?


 なにしろ、俺と彩芽の座席が、世のリア充御用達のペアシートだったのだから。


 俺は混乱におちいる。


 ゆ、由梨さんは、このことを知ったうえでチケットをくれたのか? いや、もしかして、気づいていなかったのかな? 友達からもらったものって言ってたし。ていうか、カップルシートのチケットって、友達にあげるものなの? でも、由梨さんは既婚者だから、おかしくはないのか?


 わからないことだらけで、目が回りそうだ。


 ただ、ほかのどの疑問を差し置いてでも、知りたいことがひとつあった。


 緊張から唾をのみ、尋ねる。


「ねえ、彩芽? このチケット、カップルシートのものみたいなんだけど、気づいてたりする?」


 ピクリと彩芽が身じろぎした。新雪みたいに白い頬に、朱が滲んでいく。


 その反応が如実に示していた。彩芽は気づいていたのだと。気づいたうえで、俺と映画館ここに来てくれたのだと。


 バクバクと鼓動が跳ね、体温が上昇していく。


 少しためらってから、さらにひとつ、彩芽に訊いた。


「彩芽はいいの? 俺と、その……カップルシートに座っても」


 頬の赤らみを顔全体に及ばせて、彩芽が視線を泳がせる。


 恥ずかしそうにうつむいた彩芽は、耳を澄まさなければ聞こえないほどの小声で、しかし、たしかに言った。


「……はい」

「そ、そっか」


 初心うぶな仕草に触発されて、こっちまで照れくさい気分になる。人目がなければ身悶えしていただろう。


 モジモジする彩芽を横目で見ながら、俺は思った。


 彩芽も俺と同じで、これはデートなのかもしれないって、考えているのかな?


 そんな推測をして、ますます体が熱くなる。


 気恥ずかしくて堪らないけど、先ほど感じていたモヤモヤは、綺麗さっぱりなくなっていた。

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