女の子とのお出かけはデートに含まれますか? ――2

 一緒に映画を観ることにしてから、出かけるまでには少し時間がかかった。


「できればおめかししたいのですが、よろしいでしょうか?」


 と彩芽にお願いされたからだ。


 女性にとってオシャレは大切だと聞いたことがあるので――


「大丈夫だよ。待ってるね」


 と俺は快諾した。


 そして現在、施設内に映画館があるショッピングモールを目指して、俺と彩芽は通りを歩いている。


 俺と並んで歩く彩芽は、白百合のごとく美しかった。まるで、キラキラと光る粒子をまとっているかのようだ。


 軽めのフリルがあしらわれた白いカットソーに、カーキーのショート丈キャミワンピースを合わせた彩芽は、ワンピースと同じくカーキーの、ベレー帽を被っている。


 足元はブラウンのショートブーツ。カーキーのショルダーバッグは斜めがけ。


 メイクもうっすらとしているようで、いつもより大人っぽく見える。


 ただでさえ美人な彩芽がオシャレをしたら、それはもはや美の女神だ。


 道行くひとたちは、誰もが彩芽に目を奪われている。デート中とおぼしき男性は、嫉妬した様子のカノジョに頬をつねられていた。


 彩芽と並んで歩くのは未だに緊張するけれど、近頃は嬉しさが増してきていた。これほどまでに美しい彩芽の隣にいられることを、誇らしく思う。


 けど、これだけ綺麗に着飾っていたら、厄介な男に絡まれる可能性がある。そこだけは心配だな。


 常日頃から、彩芽はナンパにあっている。そんな彩芽がオシャレをしているのだ。隣に俺がいようとも、彼女を狙うやからが現れるかもしれない。


 そのときは、悪いけど美影の手を借りよう。きっといまも、どこかで彩芽を見守っているだろうし。


 そう考えて、美影を探そうと視線を巡らせる。しかし、一向に彼女の姿は見つからなかった。


 おかしいな。彩芽への忠誠心が相当なものだから、絶対に美影はついてきてると思うんだけど……。


 不思議に感じて眉をひそめていると、彩芽が俺を見上げてきた。


「どうしたんですか、哲くん? キョロキョロして」

「美影はどこにいるんだろうと思って、探していたんだ」


 答えを聞いた彩芽が、ムッと唇を尖らせる。


「アウトです」

「へ?」

「女の子とお出かけしているのに、ほかの女性の話題を口にするとは何事ですか?」

「えーと……ダメだった?」

「ダメです! 反省してください!」

「わ、わかりました」


 随分ずいぶんとご立腹のようで、彩芽は頬をフグみたいに膨らませていた。これ以上刺激するのはマズいと判断して、俺は素直に頭を下げる。


 機嫌を損ねてしまったみたいだ。女心は難しいなあ。


 俺が肩を落とすなか、ひとつ息をついて、彩芽が先ほどの問いに答える。


「美影はおじいさんに稽古を付けてもらうそうです」

「稽古?」

「はい。美影に武術を教えたのは、彼女のおじいさんですから」

「そうだったのか」

「ですから――」


 彩芽が俺の手を取った。


 不意打ちのスキンシップにドキリとする俺を、彩芽がじっと見つめてくる。


「今日は哲くんが守ってくださいね?」


 上目遣いの瞳には、期待の色が浮かんでいる。そして、彩芽がどんな言葉を望んでいるのかは、明らかだった。


 ただ、口に出すのは恥ずかしい。彩芽と見つめ合いながらだったら、なおさらだ。


 だから、俺は目を逸らす。その代わりに、繋がれた手をキュッと握る。


「美影の代わりが務まるとは思えないけど、頑張ってみるよ」

「はい! お願いします!」


 チラリとうかがうと、大輪の花と見紛うほどの笑顔を、彩芽が咲かせていた。


 俺の頬が熱を帯び、口元が緩む。


 いや、浮ついてはいられないよな。気を引き締めないと。


 そう自分に言い聞かせて、緩んだ口元を引き結んだ。


 約束したからには、ちゃんと彩芽を守らないといけない。美影がいない現状、彩芽が頼れるのは俺だけなんだから。


 決意と使命感が芽生える。


 キッと眉を立てて――ふと思った。


 美影がいないのなら、俺と彩芽はふたりきり。彩芽は着飾っていて、俺と手を繋いでいる。このシチュエーションって、もしかして――


 気づいた途端、頬だけでなく、全身がカアッと熱くなった。


 あれ? 俺、いま、彩芽とデートしてる?

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