偶然? ――3
朝っぱらから精神的な疲労を感じつつ、学校に到着した。
修司・知香と雑談して過ごし、やがてHRの時間になる。
「よーし。席替えするか」
担任の
突然の知らせに教室内がざわつく。
戸惑った様子で、ひとりの女子生徒が先生に尋ねた。
「先月の半ばに席替えしたばかりだけど、またするの?」
「あー……それは、あれだ。ゴールデンウィークが終わって、お前ら、憂鬱だろ?」
「だね。正直、やる気でない」
「だから、気分転換が必要だと思ったんだよ。その点、席替えはいい刺激になるんじゃないか? イベントっぽくて楽しいだろ?」
「まあ、そうかも?」
唐突すぎて驚いたけど、先生の言い分はもっともだ。みんなも納得したようで、ざわつきは収まっていった。
反発がないのを確認した先生が、穴の開いた箱を取り出す。
「さあ、楽しいクジ引きの時間だ。名前を呼ぶから順番に来てくれ。クジを引いたら、書いてある番号と座席表を照らし合わせること。いいな?」
先生に呼ばれ、ひとりずつクジを引いていく。
俺の番になってクジを引くと、『28』と記されていた。座席表を確かめると、28番の座席は窓際の最後列だった。
「マンガの主人公みたいな席だなあ」
移動先がいかにもな場所だったので、思わず、ぷっ、と吹き出してしまう。
そんな俺のもとに、修司がやってきた。
「哲はどの席になった?」
「28番。窓際の最後列」
「マンガの主人公みたいな席じゃん」
「やっぱり、そう思うよね」
修司も同じ感想を抱いたようだ。おかしくて、ふたりして笑い合う。
「そうか。28番。28番ね」
「そうだけど……どうして何回も繰り返すの? まるで、覚えようとしてるみたいに」
「別に深い意味はねぇよ。じゃあ、俺は行くわ」
「ああ」
引っかかるものを感じながらも、俺は修司を見送る。
自分の席に戻る途中、足を止めて修司が振り返った。
「マンガの主人公みたいな席になったんだし、ラブコメみたいな展開が起きるといいな」
「まさか。そんな簡単に起きるものじゃないでしょ」
「さて、どうだろうな? 期待しても
思わせぶりな言葉を残し、今度こそ修司は去っていった。
全員がクジを引き終えて、いよいよ席替えがはじまった。
「よいしょ」
自分の席を窓際最後列まで運び、ふぅ、と一息つく。
「哲くんがお隣なんですね?」
「へ?」
その折り、聞き慣れた声が右横から届いた。
そちらを向くと、嬉しそうに微笑む彩芽がいて、俺はポカンとしてしまう。
「え? 彩芽が隣なの?」
「はい。仲良くしてくださいね?」
「あ、ああ。こちらこそ」
ペコリとお辞儀する彩芽につられて、俺も頭を下げた。
ニコニコと満足そうな顔をして、彩芽が自分の席につく。
一方の俺は、意外な展開に立ち尽くすばかりだ。
ビックリしたなあ。最近、彩芽と一緒になる機会がやたらと増えたけど、座席まで隣同士になるなんて、思いもしなかったよ。
ここまで来ると、偶然にしては出来過ぎではないかと感じてしまう。意図的に行われているのではないかと疑ってしまう。
いや、考えすぎだよね。まさか、先生がクジに細工をしたわけでもあるまいし。
バカげた想像を自分で笑い飛ばし、俺は席についた。
一時限目は数学の授業だ。
ノート、教科書、筆箱を、机から取り出す。
「哲くん、ちょっといいですか?」
授業の準備をしていると、彩芽が声をかけてきた。困ったことがあったのか、彼女の眉は下げられている。
「どうしたの?」
「わたし、教科書を忘れてしまったみたいで……」
「えっ?」
俺は少なからず驚いた。
「彩芽はスゴく成績がいいから、忘れ物なんてしないと思ってたよ」
「わたしだって人間ですから、ミスはしますよ」
目を丸くする俺に、彩芽が苦笑を見せる。
「それでなんですが、よかったら、哲くんの教科書を見せてもらえないでしょうか?」
「ああ。大丈夫だよ」
「ありがとうございます!」
パアッと明るい顔をして、彩芽が自分の席をくっつけてきた。
数学の先生が来て、授業がはじまる。
ふたりともが見られる位置で教科書を開くと、彩芽が体を寄せてきた。
肩と肩が触れ、
堪らず、彩芽に訴えた。
「ちょ、ちょっと近くない? もう少し離れてもいいんじゃないかな?」
「すみません。教科書が見えにくくて……ご迷惑でしょうか?」
「いや! 迷惑なんてことはないよ!」
「でしたら、このままでいさせてくれませんか?」
「う……っ。そ、そうだね。見えにくいんだもんね」
「ありがとうございます。哲くんは優しいですね」
ほわほわと彩芽が微笑む。微笑みかけられたうえに優しいと褒められもして、俺の鼓動はさらに加速した。
頬が熱を帯びるのを感じた俺は、照れているのが彩芽にバレないよう、顔を逸らす。
五月の風に若葉が揺れる様を窓から眺めつつ、俺は小さく溜息をついた。
彩芽の
そんな感想を抱いて、ふと思い出す。
そういえば、『甘ニャン』にもこんなシーンがあったっけ。
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