005_老婆アンネリーセ
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005_老婆アンネリーセ
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奴隷を買うなんて……。なんでこうなったのか、自己嫌悪する。
宿屋に戻った俺は、力なく椅子に座るアンネリーセなる老婆の奴隷を見てため息を吐く。
この宿では、奴隷は主人と一緒の部屋なら1人100グリルで泊まれるそうだ。食費は含まれないが、ここの食事は多いから2人で分けても十分お腹が膨れる。お金はそこまで困ってないから、それはいいんだ、それは……。
「買ってしまったものはしょうがない。これからどうするか……」
老婆はさきほどからコクリコクリと舟を漕いでいる。
買ってから一度も喋ってない。俺なんか眼中にないのか、喋れないのか。どうでもいいか。
老婆を買った時の書類を斜め読みして、アイテムボックスにしまい込む。
とりあえず、アンネリーセをベッドに寝かす。ベッドは1つしかないから、俺は床で毛布に包まって寝ることにした。
アンネリーセが老婆でもギャルでも同意なく同衾するつもりはない。
仮に一緒に寝たとしても、朝起きたら隣で冷たくなっていた。そんなことになりかねない。悪夢だよ、それ。
買ってしまったものはしょうがないから、最期をちゃんと看取ってやろう。それくらいしか俺にはできない。
そう言えば、あれ以来ステータスを確認してないな。
まだ眠くないし、ステータスを確認しよう。
【ジョブ】旅人Lv1
【スキル】健脚(微)
【ユニークスキル】詳細鑑定(低) アイテムボックス(低)
旅人のレベルは上がってないか。スキルの健脚も変化はない。
でもユニークスキルの詳細鑑定とアイテムボックスが(微)から(低)に変化している。
詳細鑑定でスキルの情報を確認すると、スキルは微<低<中<高<極の順で能力が高くなるそうだ。スキルは成長するが、高以上は滅多に存在しないらしい。
つまり、俺の2つのユニークスキルは成長したということだ。
詳細鑑定の成長は分かりにくいが、アイテムボックスのほうは明確に変化が分かった。
アイテムボックスの収納数が増えたのだ。今までは20枠だけど、(低)になった今は40枠になっている。これはとてもありがたい。
次にジョブも調べてみた。現在俺が転職可能なジョブは村人、料理人、商人、運搬人、復讐者、転生勇者の6種類。旅人も入れれば、7種類が選択できるジョブだ。
それらのジョブを詳細鑑定で確認するとこうなった。
▼詳細鑑定結果▼
・旅人 : 旅をする者。スキル健脚(微)が使える。取得条件は徒歩の旅を500キロメートルすること。
・村人 : 初期設定ジョブ。スキルは特にない。
・料理人 : 料理をする者。スキル・料理(微)、食材目利き(微)が使える。取得条件は料理を1万回作ること。
・商人 : 商売をする者。スキル・交渉(微)、商品鑑定(微)が使える。取得条件は商売として物品の売り買いを1000回行うこと。または鑑定系のユニークスキルを取得すること。
・運搬人 : 物を運ぶ者。スキル・アイテムボックス(微)が使える。取得条件は商売として荷物の運搬を100回行うこと。またはユニークスキル・アイテムボックスを取得すること。
・復讐者 : 復讐する者。スキル・復讐の刃(微)、怒りの刃(微)、限界突破(微)が使える。取得条件は酷い目に100回以上あい、心折れずに反骨精神を持つ者だけが取得可能。
・転生勇者 : 転生した勇者。スキル・聖剣召喚(微)、身体強化(微)、聖魔法(微)、限界突破(微)が使える。取得条件は神に認められて転生すること。
村人は初期設定ジョブだから転職できるのは分かるが、旅人はどうしてだろうか? 500キロメートルも徒歩で旅したことないんだけど? 人生のトータルでも500キロメートルは無理だろ?
あ~、でも通学は徒歩だった。小学校から高校まで徒歩の通学だったから、それでか? 通学が旅になるかはさすがに無理があると思うんだけど……。
料理は毎日料理していたから、条件を満たしたんだと思う。
商人と運搬人はユニークスキル関係の取得だな。
復讐者は全然理解できる。
毎日ごみのように扱われ、暴力を振るわれていた。俺はあいつらに絶対頭を下げない。納得のジョブだ。
思い出すだけでどす黒い感情がこみ上げてくる。今頃あいつらは勇者としてちやほやされているんだろうさ。
さて、問題は転生勇者だ。
あの神様は何をいらないことをしてくれたのか。俺が勇者だなんて笑えないぜ。俺は復讐者のほうが似合っている。
それにこんなジョブをセットしていたら、国や教会に間違いなく目を付けられる。教会があるかはしらないけど。
俺はちらりとアンネリーセを見た。しわくちゃな老婆をこれから養わなければいけない。
何度も後悔したが、買ったからにはちゃんと最期を看取ってやろう。
それにせっかくだから、その知識を役立ててもらおうと思う。
俺はこの世界のことを知らない。その穴を埋めてもらうくらいはしてもらわなければ。
あとは生活費を稼がないといけない。これは最初から心が決まっている。
ダンジョンに入ってモンスターを倒し、生活費を稼ごう。
旅人では戦闘に向かないからジョブを変えるべきなんだろう。だけど、俺に戦闘向きなジョブはない。他人に見られて外聞が悪い復讐者、神様の悪戯の転生勇者、どちらも地雷のはず。
ではどうすればいいのか。
アンネリーセは魔法使いだったな。魔法使いの取得条件はなんだ?
▼詳細鑑定結果▼
・魔法使い : 魔法を使う者。スキル・魔力上昇(微)が使える。取得条件は魔導書を使うこと。
魔導書とはなんだ?
▼詳細鑑定結果▼
魔導書 : 魔導書はダンジョンのモンスターが稀に落とすアイテム。または宝箱から発見されることもある。
なるほど、魔法使いになるには運が必要か。それとも魔導書は市場に出回っているのだろうか?
詳細鑑定がもっと詳しく教えてくれたら良かったのに……。
▼詳細鑑定結果▼
魔導書 : 魔導書はダンジョンのモンスターが稀に落とすアイテム。または宝箱から発見されることもある。モンスターが落とす確率は1万分の1。宝箱から発見できる確率は300分の1。市場価格は100万グリルから300万グリル。
お……おお……なんだよ、やればできるじゃん。
しかし、買う場合は最低でも1000万円か。これは高い。自力で見つけるのもかなり厳しそうだけど、買うのも大変だ。
他のジョブも取得条件を確認してみよう。今あるお金が底を突く前に、戦闘職を得てみせる。
それはそうと、こんなヨボヨボの老婆をダンジョンに連れていくわけにはいかない。
ダンジョンには俺1人で入ろう。ダンジョンで活動するための情報を、アンネリーセに聞こう。これだけの年齢だし、魔法使いなんだからダンジョンに入ったことくらいあるだろう。
アンネリーセは新しい魔法を創ろうとしていたが、魔法を暴走させ数十人に怪我を負わせ、多くの家屋を破壊したらしい。
どんなマッドサイエンティストだと思ったが、こういうことはたまにあるらしい。この世界、怖っ。
その暴走事故によってアンネリーセは、私財没収と奴隷100年の刑に処せられた。100年なんて絶対生きてないよね。俺も死んでいる自信がある。
そんなわけで、アンネリーセは死ぬことで奴隷から解放されるようだ。
それから購入してから知ったことだが、アンネリーセはハーフエルフらしい。年齢はなんと318歳。
エルフが長命なのは知っていたけど、この世界のエルフの寿命は1000年くらいあるらしい。ハーフエルフはエルフほどでないが、250年くらい生きると聞いた。318歳のアンネリーセは本当にいつお迎えが来てもおかしくないらしい。
この寿命はあくまでも目安だから、エルフの血が濃いとハーフエルフでも500年くらい生きる場合もあるらしい。
もしアンネリーセも500年生きるなら、寿命が尽きる前に奴隷から解放されることになるだろう。かなりレアなことらしいが。
それから主人が死んだ場合、奴隷の所有権は相続者に移る。その際に奴隷商人にまた売られるかもしれないが、奴隷期間に変わりはない。
翌朝、俺が目覚めると、アンネリーセはすでに起きていた。床で寝ていた俺を見下ろしていたから、結構怖かった。俺の生気を吸い取られるんじゃないかと錯覚しそうだ。夢に見そうだよ。
「ごめんなさい」
容姿なりのしわがれた声だ。
「何が?」
「ベッドを使ってしまったことです」
アンネリーセはベッドを使ったことが気まずかったようだ。
「いいよ。俺は床で寝られるし。それより、朝ごはんを食べようか」
アンネリーセを連れて食堂へ向かった。
今日はさすがにあれだけの量を食べられないから、2人で分けることにした。
「アンネリーセは肉と魚、どっちがいい?」
「魚です」
年をとると、肉よりも魚のほうがいいのかな。
2人で席に座って待っていると、あのおばさんが料理を運んできてくれた。
パンが相変わらずデカい。それ以上に魚がデカい。40センチくらいある皿から頭と尾が飛び出しているんですが。
これ、肉より食い応えあると思うのは、俺だけか?
取り皿をもらって、アンネリーセと分け合う。どちらかと言うと、アンネリーセに多く分けた。
「いただきます」
まずはパンをスープに漬けて口に放り込む。昨日はシチューのようなスープだったけど、今日はコンソメスープのようなさらさらのスープだ。味はコンソメじゃないけど、野菜がたくさん入っていてそれが出汁になって優しい味に仕上がっている。
俺が味わって食べている横でアンネリーセは凄い勢いで食べている。
予想外の展開だ。その年でそんなに食欲が湧くものか? もしかしたらゴルテオさんの店で食べさせてもらってなかった? 奴隷に食事を与えないと違法だと、ゴルテオさん自身が言っていたからそれはないはずだ。
これがアンネリーセ本来の食欲ということか。なんとも凄い勢いだ。
俺が半分も食べてないのに、アンネリーセは食べ終わった。魚は骨だけになり、スープなんか一滴も残ってない。
「もっと食べる?」
「いいのですか?」
「食べたいなら我慢せずに食べればいい」
「今度は肉でも?」
「お、おう」
俺のを分けるつもりだったけど、まさか1人前を頼むとは思わなかった。
料金を払って肉のセットも頼んだ。
給仕のおばさんも、アンネリーセの食欲に目を白黒させていた。
「よ、よく食べるね……」
「食欲があるのは元気な証拠ですから……」
そう答えたものの、その食欲に俺も引いていた。
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