第7話

土曜の昼下がり。休日のショッピングモールは、家族連れや若者で賑わい、まるで異世界の要塞のように活気づいていた。山田歩(元勇者アルヴィン)は、そのモールの入り口に立ち尽くし、大きな回転ドアを見上げていた。


「ここが…現代の巨大市場か。」

彼は買い物リストを握りしめながら呟いた。そのリストには、ペンで整然と「必需品」が箇条書きされている。


「日用品、文房具、健康食品…それぞれの目的地はどこにあるのだ?」

歩はモールの案内板に目を走らせたが、複雑な構造に戸惑いを隠せない。


そこへ、背後から慌ただしい足音が聞こえた。現れたのは、カジュアルなシャツにジーンズ姿の魔堂零士だった。彼は肩に小さなリュックを背負い、片手にはイヤホンをぶら下げている。


「歩、お前こんなところで何してんだ?」

零士が驚きと笑いを交えながら話しかける。


「零士か。貴様もここにいるとは。まさか、また規律を乱す行為を企てているのではないだろうな?」

歩は鋭い視線を向けた。


「規律を乱す? アホか。イヤホンが壊れたから新しいのを買いに来ただけだよ。」

零士は歩のリストを覗き込み、思わず吹き出した。

「お前の買い物リスト、ガチガチすぎだろ。こんな堅苦しいこと考えながらモールに来るやつ、初めて見たわ。」


「ショッピングモールは、物資を効率的に調達する場所だ。無計画に動くのは規律に反する。」

歩は真面目に答える。


零士は呆れ顔で肩をすくめた。

「まぁ、いいや。お前、絶対迷子になるだろうから、俺が案内してやるよ。」




二人はモール内を巡りながら、フードコートにたどり着いた。広々としたスペースに、各国の料理が並び、漂う香りが歩を刺激していた。


「零士、この匂いは…肉か?」

歩が興味津々に指差したのは、バーガーショップのカウンターだった。


「ああ、ここのバーガーはうまいぞ。試してみるか?」

零士がそう言ってメニューを指差す。


しかし、歩はメニューを見て眉をひそめた。

「この料理には規律が感じられない。」


「規律?」

零士が思わず吹き出す。


「見ろ。この肉とパンが無秩序に重なり、その上さらに野菜とソースが混在している。これは混沌そのものだ。」

歩の真剣な言葉に、零士は頭を抱えた。


「お前、ハンバーガーにそんな哲学いらねぇって! とりあえず頼んで食ってみろ。」

零士が半ば強引に注文を決めると、歩は渋々席に座った。


バーガーが運ばれてきて、歩が一口食べた瞬間、目を見開いた。

「この肉のジューシーさ…そしてパンの柔らかさ。だが、このソースの甘味には意外性がある。」


「感想がいちいち真面目すぎんだよ!」

零士が吹き出しながら突っ込む。結局、歩はバーガーを完食し、「混沌にも秩序があるのかもしれない」と呟いていた。




次に訪れたのは、ネオンライトが眩しいゲームセンター。中には子供たちの笑い声と、ゲーム機の電子音が響いていた。


「歩、これやってみろよ。」

零士が指差したのは、シューティングゲームの機械だった。


「これは…武器か?」

歩がコントローラーを手に取り、真剣に狙いを定める。


「違うって! ただのゲームだから。」

零士が笑いながら説明するも、歩の顔は真剣そのものだ。


「敵を討つには、まず冷静に状況を見極め、的確に急所を狙う。」

歩は呟きながらトリガーを引き、次々と的を撃ち抜いていった。


「おい、真剣すぎるだろ!」

零士が驚いて叫ぶ。


歩はゲーム終了後、ドヤ顔で「規律の勝利だ」と言い放ち、零士をさらに呆れさせた。




モールを後にした二人は、夕陽に照らされた商店街を歩いていた。歩の手にはいくつかの買い物袋があり、零士は肩にリュックを背負っている。


「今日はどうだった?」

零士が軽い調子で尋ねる。


「この世界の混沌には、秩序の片鱗がある。それを知れた一日だった。」

歩は真剣な表情で答える。


「お前、言葉だけ聞いてるとカッコいいけど、言ってることが意味不明だからな。」

零士が笑いながら言うと、歩も少しだけ微笑んだ。


「しかし、規律と自由が共存するこの世界には、確かに学ぶべきものがある。」



夕暮れの街を並んで歩く二人の背中は、どこか温かさを感じさせた。異世界での因縁を超え、現実の休日を楽しむ二人の姿は、ほんの少しだけ、この世界に馴染んできたように見える。


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