第3話 制定
驚くほどスムーズに、筆は進んだ。
自らのための法律を作成することを決意した勝は、一冊のノートに原案を書き殴っていた。
法律には必ず、「目的」が明記されている。
第一条の「目的」には
「この法律は、佐藤勝(以下甲と言う)の日常生活の安全を保護し、同法律で定める禁止行為に対する処罰を円滑に実行することを目的とする。」
と定め、この法律を自己防衛法と呼ぶことにした。
この法律は、勝に対する学校での不当な扱いを解消するためのものであるから、当然である。
続いて勝は、彼に対する禁止行為と、その処罰を規定することにした。
今回勝が参考にしている刑法は「〇〇したものは〇〇に処する」と言うように、行為と刑罰とを端的に結びつけている。
日本の刑罰には、没収、科料、罰金、禁錮、懲役、無期懲役そして死刑が定められている。
しかし、勝に対して行われた行為一つ一つに対して刑罰を定めることは、手間がかかる。
また、懲役◯年などといっても、一般人である勝が、特定の人間を長期間拘束することなど不可能である。
勝は悩んだ末、自己防衛法における刑罰の種類を、没収、罰金、死刑に限定した。
そして、処罰の仕方については、定めた禁止行為に対して星を1つから3つ設定し、星の数が一定数に達した時点で、それぞれ定められた刑罰を課す、と言う方式とした。
例えば、「甲に暴行を加えたものは星2つを付する」と定められた上で、岩崎が勝を殴打したとする。
この場合、岩崎には星2つが加算され、その後に禁止行為を行えば、それに応じた星が合算され、星の数が一定数に達するたびに、刑罰が与えられるのである。
刑罰については、
星2つに達した者は、没収の刑に処する。
星6つに達した者は、罰金の刑に処する。
星10個に達した者は、死刑に処する。
と定めた。
続けて、各種禁止行為とその星数を定めることにした。
勝は夢中でペンを滑らせた。
人生でこれほど集中し、何かに取り組んだ事などないのではないかと思われるほどの熱中ぶりであった。
部屋にはペン先がノートを叩く音とページをめくる音だけが響き、窓から差し込む日の光はいつのまにか夕日に変わり、部屋をオレンジ色に輝かせていた。
勝は全ての項目を書き終えるとペンを置き、大きく一呼吸した。
自らが書いた文章を目で追う。
素晴らしい
惚れ惚れした。
勝の胸には、新しいおもちゃを買ってもらった時のようなざわめきと、多幸感で満たされていた。
それと同時に、あの憎き岩崎一派に対抗するための武器であり盾を手に入れたと言う全能感に溺れていた。
この法律は、早くも明日の朝から効力を有する。
勝は窓の外を眺めた。
暗くなってからもカーテンを閉めることすら忘れていたため、夜空がよく見えた。
窓の下からは、バイクの音や、犬の鳴き声が聞こえてくる。
雲ひとつない空の上から、月が、街を見下ろしていた。
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自己防衛法
第一条 目的
この法律は、佐藤勝(以下甲と言う)の日常生活 の安全を保護し、この法律で定める禁止行為に対する処罰を円滑に実行することを目的とする。
第二条 刑罰
第一項
刑罰は没収、罰金及び死刑とする。
第二項
★2つに達した者は、没収の刑に処する。
★6つに達した者は、罰金の刑に処する。
★10個に達した者は、死刑に処する。
第三条 禁止行為
第一項 ★1つに該当する禁止行為
①甲の所有物品を損壊すること。
②甲の名誉を毀損すること。
③甲に関する虚偽の情報を流布すること。
第二項 ★2つに該当する禁止行為
①甲に対して暴行を加えること。
②甲の所有物品を窃取すること。
③甲を欺き、所有物品を騙し取ること。
④甲の親族の名誉を毀損すること。
⑤甲の親族に関する虚偽の情報を流布すること。
⑥甲に義務のない行為を強制させること。
⑦甲を脅迫すること。
第三項 ★3つに該当する禁止行為
①甲を傷害すること。
②甲の所有物品を強取すること。
③甲の所有物品を脅し盗ること。
④甲の生命に対する危険を生じさせること。
⑤甲の吃音を侮辱すること。
第四条 減刑の禁止
付された星の数は、減少しない。
第五条 未遂犯について
この法律において、未遂犯は、一つ減した星の数を付する。
第六条 処罰の方法
第一項 没収
没収は、当該人物の所有物品一つを没収し、破棄することで執行する。
第二項 罰金
罰金は、当該人物の所持金を甲が取得することで執行する。
第三項 死刑
死刑は、執行方法を問わない。
死刑の執行については、甲の任意による。
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