Rp:1 桜井一、夢の独立
「うちの薬局を継いでくれないか」
2024年7月22日
よく飲みに行く小林さんからそう言われた。
薬剤師にとって「独立開業」は夢である。が、二つ返事で「OK」を出すことが出来なかった。
サラリーマン薬剤師の平均年収は600万円弱だ。
4年制大学を卒業し一般企業に就職したサラリーマンの平均年収450万円と比べるともちろん高いが、20代の平均だとどうだろう。
薬学部のカリキュラムが6年制に変更してより学費がかかるようになった。奨学金を借りている者も少なくない。
薬局経営と一口に言っても簡単なものではないが、うまくいけば若くして年収1000万円も夢ではない。
が、それはもちろん「うまくやれば」の話だ。
お客さん、つまり患者さんに選ばれなければ儲からないし、儲かる仕組みを考えなければ年収1000万円どころか雇われよりも低い給料の可能性だってある。(その場合は廃業も視野にいれるべきかもしれない)
小林さんの薬局は僕が継ぐと3世代目。
小林さん自身も父親から継いだもので、患者第一で薬局を運営してきた。
薬剤師をはじめとした医療従事者の多くは患者の健康を考え仕事をしている。
それ自体はもちろん問題無いが、箱が無くなってしまっては考えるだけで終わってしまう。
「薬剤師として独立の話をいただけるのはとても嬉しいです。ただ、二つ返事でOKとはいかないですよ。」
「だよな。桜井くんはうちの技術料も知っているし、そこからおおよその利益も知っているしね。
ただ、そろそろ俺も引退したくてね。仲介業者を通せばそれなりに買い手は見つかるかもしれないがどこの馬の骨かもわからないやつに売りたくはなくてね。」
「お父さんが作った薬局ですもんね。それはそうだと思います。ただ、今の技術料では今のスタッフを雇って自分の家族を養うのは難しいです。」
「俺は余生、道楽みたいなものだからいいけど、桜井くんはそうだよな。なら、これならどうだろう。
しばらくこの薬局に在籍して技術料を上げる試みをして、納得いく売上が上がるようなら引き継ぐ。
どう頑張っても難しいなら僕がこのまま潰すよ。」
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