第43話 戦いの始まり
突如としてレヴァンから剣を振るわれたが、僕はエアライドで後ろへ素早く跳ぶ。
「ほう、速いな。今の動きも魔法によるものか? あとは一方的に踏みにじるだけだと思ったが、存外楽しませてくれるじゃねえか」
空振りに終わるも、レヴァンは不敵な笑みを浮かべていた。
自分でも分かってる。例えエアライドによる高速移動があっても、剣での勝負では僕が不利だということを。
それでもなんとかするしかない。僕はショートソードを抜いて構えた。
「剣で来るか、落ちこぼれのお前がこの俺に? 幾度となくやった模擬戦のように、斬り伏せてやるよ」
レヴァンは剣の天才だ。村にいたとき何度もこの身に受けたから、いやというほどよく知ってる。
だから真正面から斬り合いに行くのではなく、まだ魔法で攻めてみよう。
「ウインドストーム!」
空いてる左手から大きな風の渦が放たれ、レヴァンに向けて一直線に伸びていく。
しかし風の渦はレヴァンに当たることなく、指輪へ吸い込まれてしまった。
「剣は諦めたか、たがいの強さを考えたら当然だな。だが魔法も無駄だぜ」
レヴァンが喋るなか、僕はそのままエアライドを使って、相手の側面へ跳ぶ。
「戦いを諦めてないだけだ、ウインドストーム!」
続けて横からならどうかと試したが、レヴァンは平然と指輪をこちらに向け、魔法はまた無効化された。
「諦めないからどうした、まさか500発撃ち込むつもりか? その前に斬り殺してやるけどな!」
そう言ってレヴァンは距離をつめ、片手で剣を振るう。
僕はすかさずエアライドで後方へ回避。
「ファイアボール!」
すぐさまレヴァンがもう片方の手で炎の球を放ってきた。
「うわっ……!」
エアライドでの着地際に襲いかかってくる炎の球を、僕は倒れながらもかろうじてよけた。
「くくく、手も足も出ず、実に落ちこぼれらしい姿だな。許してくださいと今からでも命乞いしたらどうだ?」
「許しは乞わないし、みんなをこんな目にあわせたオマエを許す気もない!」
僕はレヴァンに言い返しながら起き上がる。
普通に魔法を撃っても効果がなさそうだな。
それなら、これはどうだ。
「ウインドストーム・ランス!」
今度は風の渦を収束させ、槍の形を成した風を誰もいない方向へ撃ち放つ。
この軌道を途中で変えつつ、同時にエアライドを使用し、前方のレヴァンへ向けて跳ぶ。
エアライドによる高速移動で接近して斬りかかり、別方向からは軌道を変えた風の槍が襲い来る同時攻撃だ。
それに対してレヴァンは焦る様子もなく両腕を交差し、剣には剣を、魔法には指輪を向けて対応した。
剣は受け止められ、魔法は吸い込まれる。
これでもダメなのか。
「無駄なんだよ、これが俺とお前の力の差だ!」
剣は力で押し返され、そのまま相手の剣が振り下ろされる。
僕はエアライドで急いで後ろへ跳ぶも。
「くたばれ、ファイアボール!」
すかさずレヴァンは炎の球で追撃してくる。
「くっ……ウインドストーム!」
着地後すぐにこっちも大きな風の渦を放って対抗する。
そばまで迫ってきた炎の球を風の渦が飲み込み、そのままレヴァンめがけて伸び続けた。
「くだらないあがきを……ん? な、なにいっ!?」
これまでと同様に風の渦は指輪に吸い込まれていたが、途中で指輪の石がひび割れて砕け散った。
「ガッ、ガアアアァッ!? な、なぜ!? まだ5発目だろ!? 間違いなく500発は防げるはずなのに!? ……ま、まさか、アイツの魔法は1発1発が、通常の100発分以上だとでもいうのか!?」
指輪で吸い込みきれなかった風の渦を受けたレヴァンは、見た目こそひどい傷では無さそうだが、ひどく動揺し信じられないという表情をしている。
僕としても指輪が壊れたのは驚きだが、このままみんなを助けるんだ。
「終わりだ、レヴァン!」
「ッ……! や、やめろ! あの3人につけた鎖のカギ! そのカギを渡す! 渡すから!」
レヴァンはあわてた様子で手にしていた剣を地面に投げ捨て、腰につけた袋に両手を入れる。
そして袋から出した右手をこちらへ向ける。
その右手には、灰色のカギがつままれていた。
「……わかった、それを渡すなら撃たないよ」
魔法を放つために構えていた左手を下げ、もう片方の手のショートソードも鞘に納める。
痛めつけたいわけじゃないし、みんなが助かるならそれでいい。
レヴァンが右手のカギをこちらに向けたままゆっくり歩み寄ってきたので、こちらも歩いて近づいていく。
そばまで来るとレヴァンは右手ごとカギを差し出し、僕も受け取るために右手を前に出す。
緊張した
右手と右手が合わさり、カギが受け渡されるそのとき。
「エミル、だめ!」
遠くから、セレナの叫び声。
僕が右手の違和感に気づいたのは、直後のことだった。
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