第42話 廃墟で待つのは


 僕は街を出て、教えてもらった廃墟へやってきた。


 屋根はなく荒れ地に壊れた壁や柱だけが点在しているその場所で目にしたのはレヴァンの姿だった。


 ヤツのそばにはグラッグやジュリアもいる、ここからだと距離もあって3人ともまだこちらに気づいていない。


 みんなを見かけたと聞いてやってきたこの場所に、なんでレヴァンたちが?


 僕はいやな予感に冷や汗をかきながら周囲をよく見てみる。


 するとレヴァンたちの近くにある荒れ果てた壁に、鎖で繋がれた人がいて……


「みんな!?」


 それを見た僕は衝動的に駆け出した。


 繋がれていたのは、イーリス、リフィ、セレナの3人だったから。 


「……エミル」


「すみません。街で買い物をしていましたら急に意識がなくなり、気づけばこんなことに……」


「つかまっちゃったの、たすけて!」


 僕に気づいてみんなは悲痛な面持ちで声をあげた。


 そして気づいたのは彼女たちだけではなく。


「ようやく登場か、待ちわびたぞ。エミル!」


「レヴァン! みんなを放せ!」


 笑みを浮かべるレヴァンに対し、僕は叫んだ。


 この状況だ。レヴァンたちが関係しているのは疑いようがない。


「ほう、そんなに放してほしいか。こいつらがなんだっていうんだ?」


「僕の大切な仲間だ!」


「ははは、そうかよ。ならば俺と戦え! 勝てたら無事に解放してやる!」


「どうして戦わなきゃいけないんだよ!」


「どうしてもだ。捕まってるこいつらを巻き添えにしたくなければついてこい」


 そう言ってレヴァンが歩き出した。


 無視するわけにもいかず僕もついていき、壁に繋がれたみんなから離れていく。


 ある程度の距離を進むと立ち止まったレヴァンが、壁の方へ向けて声をあげた。


「グラッグ! ジュリア! 余計なことするなよ、お前らはそこを離れず見張ってろ」


「おう、わかったぜレヴァン!」


「はーい、私たちはレヴァンの勝利を信じてるからねー」


 みんなが繋がれた壁のそばで、グラッグとジュリアが返事をしている。


 僕は目の前のレヴァンを警戒しつつも、みんなのいる方が気になってしまう。


「安心しろ、戦いが終わるまではあいつらに手は出さねえよ。俺とお前、1対1の真剣勝負だ!」


 僕が気にしているのを勘づいてか、戦いに集中するよう言ってきた。


「なんでこんなことを! 言ったとかどうとか前に怒ってたことなら僕はしてないって言ってるだろ!」


「はいそうですかと信じられんが、もうどうでもいい。単純に俺はお前が嫌いなんだよ、それが理由だ」


「嫌いだからでこんなことをするのか!?」


「嫌いだからこそするんだろうが! お前を斬り倒せる日を待ちわびたぞ。そうだ、お前が死んだらあの3人も同じところに送ってやるよ、1人じゃなくて良かったなあ、エミル」


 にやにやと笑いながらレヴァンは剣を構えた。一目見ればわかる、店売りの物とは違う逸品の剣だ。


 どうしても僕と戦う気なのか。


 みんなを助けないといけない。僕は両手を前に出す。


「ウインドストーム!」


 大きな風の渦は放たれると、レヴァンの横にあるボロい柱めがけて伸びていく。


 柱が飲み込まれながら崩れ去り、風の渦が消えてなくなるとそこには一直線に大きくえぐられた地面だけが残っていた。


 えぐられた地面の横にいるレヴァンは無傷だ。当たらない位置だったとはいえ全く動じずそこにいた。 


「戦うというならつぎは当てるから」


 僕の魔法をレヴァンに見せるのはこれが初めてになる。


 できればこれで戦意を喪失してくれたらいいんだけど。


「まさかとは思っていたが落ちこぼれのお前がこんな威力の魔法を使えるとはな、正直驚きだ。だがそれがどうした、勝負はまだ始まってすらいないんだ。つぎは当てるんだったか、ほら、当ててみろよ?」


 僕の思惑おもわくとは裏腹に、レヴァンは挑発的な態度を取ってきた。


 人に向けては撃てないとたかをくくっているのか。もしくは避ける自信でもあるのか。


「言っておくけど僕の魔法は、加減しようにもできないよ」


 最後の忠告のつもりだったが、それでも答えは変わらないようだ。


 レヴァンは口角をあげ、左手の甲をこちらに向けながら人差し指を上に立てる。


 中指には緑色の石の指輪が光り、その隣の人差し指がいいからかかってこいと示すかのようにクイクイと動いた。


 こんなヤツでもできれば傷つけたくはないけど、戦いをやめないならやってやる。


「だったら遠慮なくいくからね。ウインドストーム!」


 放たれた大きな風の渦が、今度はレヴァンに向けて勢いよく伸びていく。


 そしてレヴァンに届くという瞬間、風の渦は細く小さくなって、アイツの指輪の中に吸い込まれてしまった。


「えっ……僕の魔法が……」


「くくく、あはははははは、残念だったな、エミル! この指輪は魔法を無効化する超激レアなアーティファクトだ。ウインドストームならばあと500発は防げる代物しろものなんだぞ。まさか卑怯だなんて言わないよな、道具も実力の内だぜ」


 アーティファクト! たしか古代の魔道具だっけ。


 まさか魔法を飲み込むものがあるなんて、思ってもなかった。


「魔法が効かなければ勝ち目はないだろ。そうだ、頭を下げて命乞いしたらお前の命は助けてやるよ。あの3人を諦めて見捨てるならお前だけは生きのびれるぞ?」


 みんなを見捨てるよう笑いながら迫られるが、考えるまでもない。


「そんなの決まってるだろ、オマエを倒してみんなを助ける!」


 僕は改めてレヴァンをしっかりと見据えた。 


 どう戦えばいいかわからないけど、やらなければいけないことはわかってるつもりだ。


「そうかよ、そんなに死にたいか……じゃあ死ね、エミル!」


 さっきまで嬉しそうに笑みを浮かべていたレヴァンだが、僕の返答を聞くと顔をしかめて襲いかかってきた。


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