第40話 曇天にうごめく者(レヴァン視点


◆レヴァンside



 暗雲が空をおおうなか、俺は街を出てしばらく歩き、朽ちた広場のようなところまでやってきた。


「な、なあ。本当についてきてよかったのか?」


「そうよ、あの人絶対あやしいわよ」


 グラッグとジュリアがヒソヒソ声で話しかけてくる。


「おや、どうかしたのかい?」


 その様子を見て、丸眼鏡の女がニヤニヤと笑いながら尋ねてきた。


 名をシャムニーというらしい。ここに来るまでにいくつか話をしたが、あやしいという印象は俺も受けた。


 だがそれでもヤツについてきた理由は2つ。


 1つは前金代わりに貰ったものがあるため。


 俺の左手中指に輝く緑色の石をした高価な指輪。こんな物を渡すのだからヤツの話が冗談やイタズラでないことは確かだ。


 そしてもう1つは、エミルについての話だからだ。


「なんでもねえ。別にお前らは帰ってもいいんだぞ」


 俺はシャムニーに返事をし、それからグラッグとジュリアにそう言った。


 こいつらについてくるよう頼んだ覚えはないんだがな。


「レ、レヴァンがついてくならオレもいくぜ」


「わ、私もついてくから! 今さら帰れなんて言わないでよ」


 ……ふん。まあついてくるというなら勝手にすればいい。


「そうかい。じゃあキミたちの実力を見せてもらおうか。3人でうまいこと倒してみてくれたまえよ」


 そう言って指を弾いて鳴らしたヤツの後ろから、モンスターどもが現れやがった。


 青白い身体のミスリルゴーレムが1体と、緑色のローブをしたウインドマジシャンが5体か。


 それにしても今モンスターがなにもないところから出現した様に見えたが……

 

「なっ、モンスターだぜモンスター! やべえんじゃねえか!?」


「しかもあのゴーレムたしかAランクのやつよ! きっと私ここで死んじゃうんだ、えーん!」


 突然出てきたモンスターに、グラッグとジュリアは慌てふためいていた。


 ったく、こいつら本当に使えねえな。


「この程度俺1人で充分だ。足手まといにウロチョロされるとむしろジャマだから、お前ら下がってろ」


 俺は剣を引き抜き、モンスターども相手に構えた。





「ハア……ハア……相手が悪かったな」


 俺は最後に残ったミスリルゴーレムに剣を振り下ろし、トドメを刺す。


 多少の傷は負ったものの、モンスターどもは全て倒して魔石になった。


 ふん、俺にかかればこんなもんだ。


「うおおおおお! すげえぜ、やっぱレヴァンは天才だ!」


「あんなのを単独撃破なんて普通じゃできないわよ。レヴァンってば最高ね」


 グラッグとジュリアが……ってこいつらはどうでもいいか。


 俺は2人をしり目に、シャムニーの方を向く。


「いやあ1人で倒しきるとはお見事。まあでもバケモノと戦おうとするなら、このくらいはできなければね」


「そのバケモノっていうのはエミルのことか? 少なくとも俺が知ってるあいつは落ちこぼれで、悪い意味でバケモノとは程遠い人間だが」


「それはキミがあの少年をちゃんと知らないからさ。彼はキミよりはるかに強いよ」


 あっ? ニヤニヤしやがってこの女、今なんて言いやがった?


「おいシャムニーっていったか! さっきの見てたろ、レヴァンはな、すっげー強いんだよ!」


「そうよ、あんなモンスターも倒せちゃうんだから!」


「ククク。少年もあのくらいのモンスターを1人で倒しているよ。しかも無傷でね」


「ハア、そんなわけねえだろ! 嘘も大概にしろよ!」


「そうよそうよ! だいたいね――」


「いや……おそらく嘘じゃねえ。俺より強いかはともかくとして、それ以外はな」


 言い返そうとする2人をさえぎり、俺は言った。


「あの落ちこぼれと街で再会したとき、以前とは違う得体の知れない感じがした。昔はあんなことはなかったが、今思えばあれはあいつの力を感じ取っていたのかもしれない」


 この短期間でなにがあったのか知らないが、以前までのあいつと同じとは思わない方がいい。俺の直感がそう告げていた。


「だが落ちこぼれ野郎のエミルになにがあったとしても、俺の方が強いはずだ! 力でも、そして心でも! 俺はあいつより強いんだ!」


 あいつには仕返ししてやりたい気持ちもあるが、今の1番の望みは俺がやつより力は当然のこと、心でも強いのを証明することだ。


 ただ勝つだけじゃなく、あいつの心をへし折った上で勝たなければならない。


「いい顔つきだねえ。一緒に戦ってはあげられないが、安心したまえ。私が力を貸してあげようじゃないか」


 そのためなら信用ならないこの女だろうと利用してやる。


 待ってろよエミル、俺の怒りをその身に刻み込んでやるからな!



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