第39話 涙のあとに



 去っていくレヴァンたちの背中を僕たちは見送った。


 まさかこんなところで会うとは。


 できればもう2度と顔も見たくない相手ではあるけどさっきの様子からして、そうもいかない気がしてくる。 


「エミル、平気?」


 セレナが心配そうに聞いてくる。


「大丈夫。みんなが来てくれて助かったよ」


 レヴァンたちと遭遇したのは災難だけど、みんなが駆けつけてくれたからか、そのまま去っていったので胸をなでおろした。


「ヴァネッサにおっちゃんたちもありがとう」


「困ったときはおたがいさまよ」


 僕がお礼を言うとヴァネッサはムチをしまい、挨拶代わりのように手をヒラヒラさせながら去っていく。


「おう、同じ冒険者のよしみだからな」


「そうそう、それだ。がっはっは!」


 それからおっちゃんたちも冒険者ギルドのなかへ戻っていった。


「ねーねー、なんかすごい雰囲気だったけど、なにがあったの?」


 リフィが僕をのぞきこみながら、戸惑い混じりといった様子で不安げに聞いてきた。


「なにか力になれるかもしれませんし、よろしければお話を聞かせてもらえませんか?」


 イーリスも表情こそほほえんではいるけど、少し困惑してるみたい。


「……そうだね。言わなきゃいけないかな。ここではなんだし、あとでちゃんと話すよ」


 僕は自分に言い聞かせるかのようにそう言った。





 イーリスの家に戻ってきた僕たち4人は、一室に集まっていた。


 窓から見える空は、さっきまでの青さが嘘のように灰色の雲で覆われている。


 この空模様のように少し重苦しい雰囲気が漂うなか、僕は意を決して口を開いた。


「みんなには話しておこうと思うから、聞いて欲しい」


 静かに聞いてくれているみんなに対して、言葉を続ける。


「さっき冒険者ギルドの前にいた人たちだけど、僕はアイツらに家を燃やされ、えん罪をかけられて村を追い出されたんだ」


 あの日のことをわざわざ言い出したくはないけど……。


 でもレヴァンたちと出会ってしまい、さらにそのときの様子を考えたらみんなには黙っておくわけにもいかない気がした。


「ひどい」


 セレナが険しい表情で。


「そのようなことがあったなんて、つらかったですね」


 イーリスは胸に手を当て、悲しそうにして。


「そうだよ、ひどいよ! 衛兵に言ってあの人たち捕まえてもらおう!」


 リフィも自分のことのように怒りながら不満を訴えてきた。


「アイツの口から聞きはしたけど、でも他に証拠はないから……」


 衛兵や役人に報せたところで証明できない。


 どうでもいいわけではないけど、どうしようもない。


 だから今日までこのことを誰かに話したことはなかった。


「それよりこれから僕のせいでみんなになにかあったら大変だし、僕はここを出ようかと思うんだ」


 もちろんここに居たくなくて出ていくわけじゃない。


 けど、他に方法が思いつかなかった。


「『僕のせいで』だなんて。もしなにかあっても、悪いのはそれをする人たちであって、エミルくんのせいではありませんよ」


「うんうん。あいつらが悪いのにエミルが気にすることじゃないよ!」


「私も、そう思う」


「で、でもみんなに迷惑かかるといけないし、そういうわけには……」


 真剣な表情でこっちを見てくるみんなから視線を外し、下を向いて言葉を絞り出す。


「私たちがエミルくんと一緒に居たいのです」


「出ていくなんて言わないで、一緒がいいな」


「居なきゃ、やだよ」


 出ていかなければという想いで頭がいっぱいだった僕は、みんなの言葉を聞いて涙がこぼれた。


「また……ひとりになると思ってたから……。僕も……僕もみんなと一緒に居たいよ」


 涙を止められないままゆっくり顔をあげるとみんなはうなずき、優しく笑ってくれた。


 その笑顔に僕の心は温かく照らされ、悲しみが涙とともに流れ出ていく気がする。


 故郷を追い出されることは不幸だったけど。


 こんなにも大切なみんなに出会えたのはきっと、なににも代えられない幸運だ。



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